キャッチ30

PERFECT DAYSのキャッチ30のレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
3.8
 何気ない日常を丁寧に掬い取って見せる映画だ。この手法はジム・ジャームッシュ監督の『パターソン』を彷彿とさせる。

 主人公は渋谷で公衆トイレの清掃員として働く平山という男だ。平山はスカイツリーを望む下町にあるアパートに1人で住んでいる。平山の日常はルーティン化されている。老女が掃除する竹ぼうきの音で目覚め、歯を磨いて、植木に水をやり、作業着を着て部屋を出る。缶コーヒーを買って、中古のライトバンに乗り、カセットテープを掛けて仕事場に向かう。休憩中はカメラで木漏れ日を撮る。仕事を終えると、一旦部屋に戻って着替えた後、銭湯で身体を洗い流し、居酒屋で酒を飲み、古本を読みながら寝落ちする。孤独だが静かで幸福に満ちた日常。

 平山は寡黙で過去は謎のままだ。劇中では妹と姪っ子のニコがいて、妹は裕福であること、父親が老い先短いことが判ってくる。このことから平山は裕福な人生を捨てたという解釈ができる。ラストで平山が見せる表情はもう戻すことができない家族との時間を思っていたのかもしれない。

 監督のヴィム・ヴェンダースは平山の日常をドキュメンタリー調に撮る。また、敬愛する小津安二郎へのオマージュが随所に見られる。平山という役名は『東京物語』から引用されているし、平山とニコが自転車で並走する姿は『晩春』を想起させる。