ながの

PERFECT DAYSのながののレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.5
ヴィム.ヴェンダースがディレクターを務めた「家、ついて行ってイイですか?」2時間スペシャルを観たような気分。TV番組ながら「家、ついて〜」こそが最強の映画であり、この番組をフィクションで超えることはもはや不可能とすら思っていたことがある。だから最大級の褒め言葉のつもり。
さすが小津フリークの親日家なだけあって、日本人をよく知り尽くしているなと唸ってしまった。よく観察して研究してるなという感動。もちろん役所広司や日本人スタッフ陣がいるからではあるんだろうけど、日本人からしてその人物描写に全く嘘がなく誠実だったのが、ものすごく感動した。街中ですれ違うあの人この人の家に、まさについて行った気分、覗いたような気分。

感動した、というよりも心が洗われた。大きな出来事も起こらず、繰り返しの日常を淡々と映しただけのもの静かな映画が、何故こんなにも胸に刺さるんだろう。「こんな風に生きていけたなら」のキャッチコピーがピッタリ。
前半で思い切り主人公の日常のルーティンを見せておいて、しっかり中盤でそれを崩す出来事が起きる。後輩が仕事すっぽかして逃げたせいでそのルーティンが崩れたことを、朝の缶コーヒー2本買いや、いつもしないあくびで表していて、自分が穏やかな日常を掻き回されたような気持ちになった。

役所広司演じる平山は多くを語らない。ほぼ無言で、喋りたい時に気まぐれに喋る。もう悟りを開いて、感情すら無いのかなと思えば、キレる時はキレるし、泣く時は泣くし、笑う時は笑う。すごく日本人だし、すごく人間だし、すごく仏の境地だと思う。
過去にもほとんど触れられない。姪っ子が家出して訪ねてきたところで、平山の父との関係や妹との関係、どんなお家柄の人なのかようやく触れられたけれど、核心には達しない。そこそこの家の出身で学もあり、今はトイレ掃除をしている、それしか提示されない。そして、平山と姪っ子は「今度は今度、今は今」と声高らかに歌う。なんという人間讃歌なのだ。

ヴィム・ヴェンダースも役所広司も、かつて天使だったに違いない。ありがとう。
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