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PERFECT DAYSのOのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
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平山さんが羨ましい。毎日同じようにルーティンをこなすけれど、それは決して惰性や投げやりな態度ではなく、地に足つけて今を生きていて、背伸びはせず自分の手の届く範囲でささやかに満ち足りた暮らしをしている。冒頭から繰り返し平山さんの1日が繰り返され、出会いや別れに伴ってイレギュラーなことが起これど、彼はただそこにずっといて、丁寧な暮らしという言葉がこれ以上合う人はいないのではないかと思った。
はじめ、無口で人付き合いも希薄な平山さんは無骨でつまらない人間かと思っていたが、物語が進むにつれ、笑うし照れるしさっき知り合った人と影踏みで遊びだすかわいいおじさんだと知った。実はすごく子どもみたいな人だとパンフレットの対談で語られていたのが印象に残ってる。たしかに子どもみたいに見える場面もあって、無邪気で無垢な人だと感じた。渋い外見の割に内面が純粋すぎる、それがかわいいおじさんたらしめていると思う。居酒屋のママにインテリなんだからと褒められたとき、やめてよ〜と顔を赤らめながら謙遜する平山さんを見て、なんてチャーミングな人なんだと思った。仕事の日には家に置いておく腕時計を、ちゃんと休日につけるのもその仕草もすごく良かった。(パンフレットでママに会う日に腕時計をつけるとバラされていた。平山さんなりのお洒落だったんだなぁ。)それと、カセットテープの棚の上にクルミっ子の缶が5個ほど並べられていたのに気付いて、良い趣味だな〜と思った。かわいいデザインのステキな缶でいつか私も欲しいやつなのだ。妹の手土産と会話から平山さんがクルミっ子好きなのだと分かり、辻褄が合ってすっきりした。
必要なものだけが綺麗に並ぶ部屋に、これは映画の中の作られた部屋だしそりゃ欲や怠惰は必要ないかと、自分と真反対な暮らしを半分拗らせて鑑賞していたが、現像したフィルム写真を月毎にブリキ缶へ溜め込み、それを押入れに積み上げるのを見たときと、ニコが泊まりに来た際に平山さんが寝ていた倉庫の様な部屋の存在を知ったときは、彼も完璧人間(ミニマリスト人間?物に執着しない人)じゃないんだなと親近感を覚えてちょっと安心した。唯一ではあるかもしれないが何かに執着する欲があるんだな。数十年も生きている人間の荷物があんなこざっぱりしていてたまるか!というのと、実際にそれは悲しいし寂しいとも思っていたので、あの部屋にも雑に物が積み上げられている場所があると知れて良かった。
逆に平山さんが怖くなった場面もあった。現像したフィルム写真を選別して破り捨てる場面。フィルムも現像も値上がりし続けている今、自分ではもったいなくて出来ないことだから、躊躇いなく破り捨てる様子に正気の沙汰!?と怖くなった。しかし、そういう世の流れやお金にも執着しないのが平山という男なのか。
あと、劇中の音は平山が聞いている音しかいらないとパンフレットに書いてあって、それがすごく良かった。映画の雰囲気とぴったりだし、作り込まれすぎない感じが心地よかった。平山さんが車で聞いている音楽が、エンジンが切れるのと同時にブチっと止む場面ですごいテンション上がった。
前評判を聞いて期待して観に行ったがやはりとても良く、観ていると時間の流れがゆっくりに感じるところが好きな映画だった。あんなふうに生きれたらいいな。
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