Runa

PERFECT DAYSのRunaのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.6
なんと贅沢な2時間…
あっという間に終わった。
非常に滋味深い。
最後の長回しは特に印象深く、平山の感情が脳に直接染み込むような不思議な感覚になった。


まず冒頭5分で名作だとわかる。
家具や持ち物、振る舞いが、平山の人物像を雄弁に語っている。
それを魅せる撮り方や演技、衣装やセットの調和がまず素晴らしく、冒頭から早くも息を呑んだ。


この話は選択的没落貴族の話なので、
これを欺瞞だと言う人もいるだろう。
古ぼけたアパートだが広いし立地も悪くないので家賃は決して安くないだろうし、
毎日自炊をせず銭湯に通える蓄えや生活の余裕がある、そんな妙齢の独身男性がどれほどこの日本にいることか。

ただあまりにも清貧で清廉なものしか映らないのは、平山が生きていく上で果たすべき責任を一部放棄し、見たいものしか見ようとしない姿勢そのものなのだというレビューをどこかで目にし、しっくりきた。

なのでここまで書いて思うことは、
この映画は手放しで羨ましがられる素敵なスローライフ、と言うわけではないのだ。
監督はこんなふうに生きていけたら、と繰り返し話していたが、
最後の長回しで感じ取ったのは間違いなく戸惑いや悲哀であったし、
今後いつまでこんな生活ができるかもわからない。

けれど木漏れ日のように穏やかに、
日々規則正しく生きる主旋律の中で
時たま針が振れるように少しずつ他者との交わりが調べに影響するのは心地よく
何より私も大好きな陽の光を愛おしげに見上げる笑顔に引き込まれた。

心に余裕がない時は確かに木漏れ日や陽の光に頓着する間もないし、
煩わしさに眉間に皺ばかり刻まれるけれど
見たいものだけを見て、
したいことをして、
大切にしたいものだけを少なく持ち生きる。
何だか退職後の父を重ねてみてしまったが、
長年重ねた肩書きも何も剥がれて生身になった時、何を生き甲斐にして生きるか
選択できるくらいの余裕は持ち合わせた人でありたいと思った。
Runa

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