茅

PERFECT DAYSの茅のレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
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うまい映画ではあったが、良い映画だとは思わなかった。ルーリードもきっと同意するだろう。「Just a perfect day」に勝手に「s」を足して複数形にするな!そういうことじゃないスって言いそう。

ここから長々不満を書くことになりそうなので、「あー映画よかった!」というひとが見ると不愉快に感じるかもしれない、ソーリー。

全体を通じて感じたのは、リアリティがないということ。それは、カキ氷のいちご味がいちご味ではなく「いちご味」味なのと一緒だ。この映画もその違和感が先立って素直にのめりこめなかった。

思い返せば「パリ、テキサス」のときもそれは感じて、みんなが良い良い言うのでおおいに期待して見に行ったところ全然良いと思えず、だから、おそらく僕の人生経験が足りてないか、あるいは単にヴェンダースが自分は「苦手」、という話かもしれない。
でもせっかくなので、どう違和感を感じたかメモしておく。

まず、役所広司がこのプレイリストを聴いてるの謎感がある。こんなストイックなルーティン生活送って毎日カセット聴いてるのに、レコ屋で「Transformer」を見つけて「ほぉ」ってなってる感じとかも、謎である。もっと偏りが出ないものか?こんな人ほんとにいるのか?ほんとに腹が痛くなった人が、製薬会社のCM冒頭よろしく「イテテ......急な腹痛、大ピンチ!」なんて言わずに黙って玉汗をかくがごとく、こんな人、実際にはいないのではないか?Popeyeの映画特集くらい、「ちょうど文句言えないくらいのニワカ」なセンを狙ってる印象を受けてしまった。

さらに、「多様性、どうや」のこなれ感にも違和感がある。いかにもさりげなく(てのも変な言い方だが、その通りである)外国人親子が映り込んでいたり、障がいを持つ青年が登場し(というよりいい感じに記号的に配置され)、そして極め付けはホームレスの扱いである。田中泯に踊らせとけばなんとかなるっしょ感を感じてしまった。だって、田中泯の踊りの前ではみんな口をつぐむしかないもの。ズルい!ベンチに寝転べないように手すりとかついてる町なのに!偽善者!
これらの人々は、「Tokyo」に彩りを添えるためだけにマジカル・ニグロ的な扱われ方をされていると感じてしまった。
そのくせ良く知らん女の子がちょいちょい現れ地味なラッキースケベもある感じとか、結局「多様性に理解があるおじさん」かい!と......

ここまででわかる通り、まったく刺さらなかったわけである。
僕が主だって読み取ったのは「権威」と「雰囲気」。これらがなんとなくクレーム入れられないくらいの小器用さで混ぜ合わされ、観客に本気で関わり合ってこようとしない。オシャレ系のチャラ箱。
木漏れ日とのカットバックもあざとい。
「今度は今度、今は今」もあざとい。
そんなわけだから当然、最後の表情もついていけなかった。

この作品が国内で多くの人々に評価されているとは、もはや〈現在〉すら「ALWAYS三丁目の夕日」的ノスタルジーで包まないと直視できない絶望が日本に蔓延しているのか.......いや、まぁディズニーランドとかUSJも人気だし、僕はまったくわからないけどその辺りが関係してるのだろうか。それこそもう全部がオシャレ系のチャラ箱みたいになってきてるよな。トイレで「あっす、お疲れ!」とか挨拶するけど、喫煙所ではお互いスマホに目を落として何も会話しない感じね。もちろん紙巻きじゃなくて、電子タバコ。日本よ、、、。もはや映画と関係ない話になってきた。まぁ、とにかく、うっすら悲しい気分になったわけである。

こんな書かされてしまっている時点で、ある種この映画の勝ちとも言えるやもしれない。いつかもう一度見るかもしれない。
最後に良かった点を挙げておくと、
◯異邦人から見た日本の切り取り方、って感じは面白い。
◯主人公、女の子には優しいのに男性にだいぶ厳しめになる感じはリアル。
◯三浦友和とのシーンがよかった。このシーンは見れて良かった!
茅