『東京の物語』
WOWOWにて鑑賞
そもそもの成り立ちとしては 日本財団の「THE TOKYO TOILET プロジェクト」を広報するためのコラボ企画で 簡単に言えば「企画物」です
https://tokyotoilet.jp/
劇中に登場するお洒落なトイレは このプロジェクトによって建てられたもので そのデザインは全て著名な建築家によるものであり 主人公が着ているユニフォームも 実際の清掃員が着用している物です
因みに こちらのユニフォームはNIGO🄬デザインです
その映画の主人公を演じる 役所広司の「平山」とは ヴィム・ヴェンダース監督が敬愛する 小津安二郎監督の名作of名作『東京物語』の平山(笠智衆)に由来する
その平山の物語は淡々としていて同じ事が繰り返され 何かが起きるわけではないが かと言って変化がない訳でもない
ただ ヴェンダース監督が描くこの東京の物語は「気づかない人」には「本当に何も分からないだろう」と思う
何でもないような中に散りばめられたメッセージを読み取る もしくは読み取れないのは「観客側の問題」だと思う
何故なら そのメッセージは小さくとも確実に描かれているのだから
毎朝 目覚ましも掛けずに外で箒を掃く音で目覚め 起きたとたんに布団を畳み歯磨きをする コレは刑務所で身についた習慣に他ならない
そして 出所したのちに わずかな荷物だけでココで独り暮らしを始め 社会復帰している
今となっては オールディーズと言われそうな洋楽を聴きながら現場へ移動する主人公
音楽の趣味とは 正にその人の嗜好や性格や人となりを良く表すもので この辺の曲のチョイスで平山のキャラクターを説明するセンスの良さは ヴェンダース監督ならでは
そんな 平山の元に突然 姪のニコ(中野有紗)が訪れる
どうやら「家出」して来たらしい
平山も気づかない程に久しぶりの再会だが その割には距離が近い
「家出するなら伯父さんのとこって決めてた」
「伯父さんとママって仲悪いの?」
2人で昼食をとるシーンでの 2人の所作はとても良く似ている
そして 平山が撮り続けている写真が「木漏れ日」であり それはニコとの思い出である事が分かる
「ママと伯父さんって 全然似てないね」
何かを確かめるように ニコは問い掛ける
その後に迎えに来た 母親のケイコ(麻生祐未)との会話で「現住所」に来るのは初めてである事が分かる
カメラを貰った事を覚えてるニコの年齢から考えて 平山とニコが会っていなかったのは数年から長くて十年程度だろう そうすると殺しという事は無く 傷害か過失致傷と言った所か
運転手付きの高級車 身分違いなのか道ならぬ恋で ケイコのオヤジさんか親族と一悶着しての服役だろうか
どちらにせよ 平山がいわゆる「凶悪犯」という人種でない事は ココまで観た観客なら想像できているだろう
結婚は認められなかったが 子供は生んだ その結果の私生児がニコなのか
その落としどころとして「親戚の伯父さん」として 会わせていたのかも知れない
再会した際にケイコは言っていた「お父さんもう 色々分からなくなってるけどホームに会いに行ってあげて 昔みたいじゃないから…」
平山に何があったのか もしくは何をしたのかについて語られる事は無い
だが 平山とニコがただの親戚ではない事 平山とケイコが兄妹でない事は分かる
数年来 何の変哲も無かった平山の生活に 訪れた変化
その切っ掛けはニコが「何か」に気が付いたからなのかも知れない だがニコも確信をつく事は無かった
それら「有った変化」と「無かった変化」全てを噛みしめて 平山の「東京の物語」はこれからも続いていく…
「4:3」のアスペクト比は 現代劇でありながら1953年『東京物語』を観客に想起させるためのオマージュだろうか?
東京の象徴が「東京タワー」から「東京スカイツリー」へと変化しているのが印象的
2人が車に乗り 一緒に飲む缶コーヒーが同じく役所広司がCMを担当している「BOSS」なのは監督の遊び心か?
あと レコード屋の客に監督らしい人が居たのだが 後ろ姿だけで確認できなかった 誰か知ってる人いますか?
物語の最後を締めた 三浦友和の芝居は素晴らしかった