幸田文の木、ともだちの木
どっしりと身構えて動かないそのベンチの傍らにある木は、主人公の平山の生活様式を体現しているようだ
ホアキン・フェニックスを彷彿とさせる凄みがあった、役所広司 彼がフレームにいるだけで絵が成り立ってしまう
玄関開けて毎回空を眺めるシーンが良かった
しようとしてしているわけではなく、自然にそれが起こっているのが良かった
他にも柄本時生、石川さゆり、研ナオコ、三浦友和、田中泯、犬山イヌコなど錚々たるメンツが立ち並ぶ
選曲も素晴らしい 60年代に名を馳せたSSWたち レコードでなくカセットテープを選んでいるのは、車でも聞けるし安いからなのだろう カセットテープもノスタルジアの産物みたいにみられがちだけど、割と音が良くてびっくりしたりする
平山はアヤにとってのゴーストワールドだし、姪にとっての父親代わりのような唯一の逃げ場所だった
映画として鑑賞すると、あまりに画一化されたルーティーンに見えるけれど仕事なんて本当にこんなものだな、と思う ましてや同じ場所、同じ作業であれば基本的にすることは変わらないので、どんどんミニマルになっていき、仕事にひたむきな平山はさらにミニマル化すべく独自のツールを開発したりする
これは他の仕事でも言えることだと思う
一見綺麗な暮らしのようにも見えるけれど、何かが崩れたら終わってしまいそうな危うさも孕んでいるように見えた
妹は'住む世界が違う'と姪づてに聞くが、本当に違うのだろう タクシーには見えなかった
現実がこんな煌びやかなわけはない
綺麗に見えるのはヴィム・ヴェンダースのフィルターと取捨選択によるものが大きいと感じている
平山を見守るものが木の他にももうひとつあって、それは木の何倍も大きくて、彼の暮らしをただ見つめているわたしたちのような存在 被写界深度が浅くてもどこかに必ずフレームインしているように思えたスカイツリーは、彼に教えを説いたりするわけでもなく、ただそこにいる
初めて鑑賞した監督の作品だったけれど、パリ、テキサスやベルリン・天使の詩はまだ観られていない
今日みたいに雨がぽつぽつと振るなかで、己の心を整理する意味合いでも鑑賞した甲斐があったといえる