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落下の解剖学のOKADICKリムのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
3.8
フランスの人里離れた雪山の山荘で1人の男性が転落死した。
状況からして事故死は考え難く、自殺か妻・サンドラによる殺人かが裁判で争われることになるのだが、唯一の目撃者は弱視の息子ダニエルのみ。
決定的な証拠が無い中、裁判は夫婦仲が争点となっていき、夫婦間の秘密や嘘が露わになっていくのだった…。



まず、「これで万事解決!めでたしめでたし!」
という裁判モノやミステリー好きにはオススメできません。
本作の重きはそこではなく、真実はどう足掻いても他人には分からず、推測の域を出ないということにあります。

決定的な悪人でもなければ善人でもない、世の中の大多数である人間・サンドラの有罪無罪をまるで陪審員になったかのように観客各々が判断する作品です。(一応劇中で判決は出ますが)

自分が総理大臣になれないとも言い切れないように、殺人かもしれないし自殺かもしれない、はたまた単なる事故かもしれないし実は真犯人がいるのかもしれない。
真実は当人にしか分からず、他者は想像の坩堝に陥るしか無いわけで、いやらしい映画ですわ。

無罪の為とはいえ、裁判で自身の夫婦生活や性的嗜好など全てが暴露されていくサンドラを演じたザンドラ・ヒュラーの同情もできるし怪しくも見える演技あってこその本作ですし、
両親の事実を裁判で知らされてある意味一番辛い立ち位置のダニエル役のミロ・マシャド・グラネールの大人以上に大人っぽい芝居とか、
パルムドッグも受賞したボーダーコリーの凄まじい中毒芝居(これが一番すごいかも)等、
役者陣の素晴らしい芝居と、監督と脚本家がパートナー同士という地獄絵図しか浮かばない状況で生まれた脚本が組み合わさった重厚法廷ヒューマンドラマでございました。
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