ふしん

落下の解剖学のふしんのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.0
雪山の山荘で男が不審死し、彼の妻が殺人の容疑で裁判にかけられる。確かな物証がない中、裁判で彼女の複雑な人間性や夫婦関係が紐解かれていくお話。

「確かな物証が何もない」ため、裁判での証言が各々の主観に基づく意見・想像になっている点が面白かったですね。改めて人間の解釈の曖昧さ・身勝手さを思い知らされました。

裁判が進むにつれて、サンドラの複雑な人間性、壊れた夫婦関係が紐解かれていきますが、それですら事実の一面にしか過ぎません。サンドラ自身が作中で語っていた通り、数ある事実の一面を切り取り、それだけが真実だと流布することには危険性がある。

思い返すと、真実がわからない中、各々が、”誰かに与えられた”事実の一面だけを見て、主観で物事を好き勝手に解釈する場面は、この世に溢れているわけで、その点では、この裁判は社会の縮図のようにも思えてきました。SNSなど、顕著ですよね。

また、フランス語を話す時と、英語を話す時でサンドラの印象が異なっていたり、供述を再現したシーンはあるものの過去の"真実"を回想するシーンは無いなど、曖昧さを強調する仕掛けも多く、緻密な計算を感じました。

裁判が進む中、ダニエルは知らなかった両親の姿と関係性にショックを受けますが、マルジュのアドバイスを受けて、彼なりの判断を語ります。ですが、その判断が正しかったのかは、最後まで明かされません。

ただ、ダニエルの傷ついた姿をみて、真相が違っていてもいいから、彼の心だけは救われてほしいと思ってしまいました。それもまた、私の身勝手な解釈なのでしょうね。
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