めかぶ

落下の解剖学のめかぶのネタバレレビュー・内容・結末

落下の解剖学(2023年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

「真実」とは嘘偽りがなく本当であるという事。
「事実」とは現実に存在する事柄。

法廷という客観性が必要な場で弁護士検察が事実を各々の主観であたかもそれが真実であるかのように主張していく。
傍聴者は真実を推測する。
それもまた各々の主観だ。
人は事実をどう感じ、どこを見て、どのように解釈するのか?

観客に委ねられるラストは想定内にしても想像していた展開とは違った。

殺したのか殺してないかは重要ではない。どう見えるかが重要なのだ。
事実を聞いた者が「いや、彼女が殺すわけない」と思われる事が重要だと力説する弁護士。

夫は事故なのか妻が殺したのか自殺なのか。出来事を推測していく中で避けられない夫婦の関係、パワーバランス、家族関係が他者によって暴かれていく。

この女性はどういう人物なのか?
親の知らない一面を初めて法廷で聞かされる11歳の息子はどんな気持ちで聞いていたのか。
法廷で証言する母サンドラをローアングルで撮るカメラワークは息子目線なのだろう。
カメラワークが秀逸だ。
サンドラは息子にチラチラ視線を向ける。夫婦の醜態を聞かれる事に戸惑ってか、息子を気遣ってかそれはわからない。
息子は息子で、母親が自分に視線を送っている事など見えないのでわからない。
母親の表情から感情を読み取る事はできないのだ。

夫婦の関係性と言語。
妻サンドラはドイツ人。
夫はフランス人。
お互い母国語を話さず英語で話す。
言語が違うとニュアンスも違うのは当然だろう。
そういう事でもお互いすれ違う感情を抱いていた
かもしれない。

サンドラは不倫をしていた。
相手は女性。
サンドラはバイ・セクシャルだ。
不倫をしていたのが夫なら?
それもまた夫を殺害する動機の一つになるか?
しかしそれでもし殺害したなら同情の余地が発生したりするか?
しかし、浮気をしていたのは母親であるサンドラなのだ。
そしてその浮気相手は女性。
性に対して奔放な女性という印象を与える事になってしまったか?

夫婦の関係性。
同じ職業でありながら妻は売れっ子、夫は売れない。しかし、妻は家事育児全てを夫に押し付ける。夫はその為、創作の時間がないと訴える。
それは、妻のせいなのか、創作が進まない夫の被害妄想か。
それら夫婦の会話を録音していた夫。
そして、自分の事しか考えていないようにしか聞こえない妻の激しく夫を罵るやりとり。
それを聞いた息子はどう思ったか。

録音では明らかに悪妻であるサンドラ。
しかし、それは悪妻である事を明らかにしたいのかどうなのか理由はわからないが録音してる夫の思惑。
「あんな喧嘩聞いた事がない」と息子は言う。
録音の為にわざと喧嘩を吹っかけた
かもしれない。

そもそもなぜ録音しているのか?
創作の為だという。
では、その録音も創作の中の一つか?

夫婦関係なんて他人にはわからないのだ。喧嘩しているからといって相手を憎んでいるとは限らないし、仲良さそうに見えるからと言って愛し合ってるかどうかは別問題かもしれない。

視覚障がいを持つ弱視の息子
ものがハッキリと見えない
これがこの映画の全てではなかろうか?
真実はハッキリ見えないのだ

ラストに息子が下した結論
真実を決めるのだ
それがほんとうでなくても
どういう思いだったのだろう
この後息子はどういう目で母親を見ていくのだろう?

映画を見てる私は、この法廷のやり取りを聞き、あーでもないこーでもないと頭の中でぐるぐる考えを巡らし、まるで傍聴席にいるかのような気分になっている事に気づく。

それにしても、長い!
事の顛末を見たくて集中途切れる事はなかったが法廷でのやりとりをもう少し短縮してほしかった。
アメリカ映画とは違う法廷劇で新鮮ではあったけど。
あの長いやり取りををラストまで見れたのは主演女優の演技力のおかげか。
息子役の子の演技も素晴らしかった。
あと、音楽。
あの音楽がヒリヒリした感情や、どうなるのか?真実は?と観客を前のめりにさせたのは間違いない。
そして、弁護士の魅力的なこと♡
イケメンでなんともいえないセクシーさ。あの弁護士見れただけでもよしとしよう。
あと、犬!
犬の演技、素晴らしかった👏✨
めかぶ

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