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落下の解剖学のshinkariのネタバレレビュー・内容・結末

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

裁判の過程で物語を構築することがもつ暴力性が強調されていて、一応テキスト分析を身につけていなければならない身としては「何をやってはいけないか」がわかる材料として面白かった。
映画では少なくとも三つ、人が事件を判断する枠組み(線引き)が入れ子みたいな形で提示されていたように思った。
1つ目がストーリーの軸になっている、裁判における被告(主人公)が有罪/無罪かの線引き。
2つ目が各々の証言にかかわる事実/物語(フィクション)の境界。ただしここではあくまでストーリー内での認識のなされ方のこと。
3つ目が、主人公の振る舞いについての責任・影響力(審理されている罪状とは別の次元で)の評価。
主人公と夫との確執は深刻だったが、かといって殺人犯とするには根拠が弱すぎるようにも見える。一方夫の死因が自殺だったとしても、その大きな原因は主人公にあると考えるのが妥当だろう。良し悪しをストレートに括りづらいグレーゾーンが随所に存在するのだが、そういった混沌としたものが早急に上記の尺度に合わせて切り縮められていく構造が裁判を舞台としてうまく描かれている。

「真実」を明示しなかったことこそがこの作品の魅力を際立たせているように思う。最後の意味深な描写も含めて人と話し合いたくなる映画だった。
ちなみに自分は法廷の描写を観ている間ずっと「上品で丁寧な『リーガル・ハイ』」みたいだと思ってた。
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