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落下の解剖学のtjrのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
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2023年のパルム・ドール、そしてアカデミー賞脚本賞。
それに足るだけの圧巻の法廷劇は一見の価値あり。

普通の法廷劇は、証拠を提示し論理的に判決を下す中で、その事件に関わる人々のパーソナルな部分を観客にのみ分かる形で示す。
しかし今作は、証拠不十分なこともあってか、各登場人物の主観に基づいて裁判が進む。
それでも白けずに観ることができるのは、“それぞれの主観”をしっかり示していたからだろう。
嫌味な検事役を嬉々として演じたアントワーヌ・レナルツの熱演しかり、かつて恋した相手の無実を信じて弁護するヴァンサンしかり、弁護側と検察側で揺れる息子ダニエルしかり(左右のパンを繰り返すカメラワークが単純ながら効果的)。
しかし、主人公サンドラの主観=事件の真実は明かされない。この締めくくり、余韻が、ミステリではなくドラマにぐっと引き寄せている。
カメラワークといえば、裁判中のライブ感溢れるカメラワークがドキュメンタリー性を持たせ、主観に基づいて進む法廷にリアリティを与えていた。
息子越しに(時には息子の影に潰されそうなほど)画面の隅に追いやられるサンドラも良かった。

裁判が始まるまでの家のシーンも素晴らしかった。
劇中で“ずいぶん高いところに住んでるな”と言及されるほど、至る所に“落下”の臭いがこびりついている。

素晴らしい熱量で描かれる夫婦喧嘩のシーンは必見。

※批評を読んで、音楽(ピアノ)の巧みな使い方に驚愕した。父のテーマ、母のテーマに従ってもう一度鑑賞しなければ…
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