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落下の解剖学のkeitaのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.2
何を観るのか何を聴くのかによって、その人の印象が変わり、自分の判断が変わる、といった構成はよく観る。この作品は、そのよくある構成を現代の文脈の中で捉え直している点で新規性があり、カンヌのパルムドールに値するのだろう。

主人公である女性が一家の大黒柱であり、夫の男性は主婦の役割が大きい。夫が妻に家事の役割の不満を吐き、妻はそれを宥めようとする。ここに「女性=立場の弱い存在」といったこれまで黙認されていた前提はなく、むしろ夫の方に同情の視線が向けられる。性別ではなく、役割がその対立を生んでおり、これからの世界の至る家庭で見られるようになりそうな画であった。一つの出来事を立場が違う複数の視点で描く形式(羅生門形式)を生んだ『羅生門』(1950)では、1人の女性の言動を巡り4人の男の視点で語られる。ここでは男の視点が基本で、これはヒッチコックしかり、他のこれまでの映画監督が無意識に行っていたことである。

ほかにも、主人公はバイセクシュアルであることにより(自分の認識するジェンダーが他者と共有することが普通の現代性がある)、そのことが新たな疑惑をいくつか生み出す。
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