名波ジャパン10

枯れ葉の名波ジャパン10のレビュー・感想・評価

枯れ葉(2023年製作の映画)
4.3
鋪道に散り落ちた枯れ葉が曇天の下ラストダンスを舞うといった感じの映画です。古典的名作の香りを再現した傑作。監督自らが語っている様に小津安二郎とチャップリンへのオマージュに溢れています。社会の片隅に生きる中年の男女の不器用で冴えない恋が洒落たユーモアを交えて描かれます。無表情で直立の姿勢での台詞棒読み的な演技は舞台劇を思わせ、口下手な2人を際立たせると共にかえって観客の感情を揺さぶります。ヘルシンキの街並みの映像を心象風景として用い、また、ワンカット、ワンカットを究極まで凝縮して高密度な81分に編集しているのは正に小津流、チャップリン流。見事です。エスプリの効いた濃密な台詞は秀逸ですし、日本の子守唄(竹田の子守唄)からロックンロール、クラシックそしてエンディングは期待を裏切らないシャンソンの「枯葉」という音楽のセレクションも文句なし。不器用な恋愛の醸し出すノスタルジーに浸る観客の意識を頻繁に挟み込まれるロシアのウクライナ侵攻のラジオニュースが今現在に引き戻します。計算づくの演出には脱帽です。妙にこねくり回さないシンプルなストーリー展開も好感が持てます。まるで映画の教科書の様な映画ファン必見の作品です。