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枯れ葉のhabakariのレビュー・感想・評価

枯れ葉(2023年製作の映画)
3.5
期待値びったり。古典的なすれ違いラブストーリーであるが、簡潔かつ強固なショットで90分弱に収めれば十分面白くなる。男と女に(筋運び上必要のない)犬を加えて画面に豊穣さを付与する手さばきもさすが。
過去作に比べれば俳優の表情は豊かだし、台詞による心情吐露も多い方。直近のカウリスマキ作にはアクチュアルな要素/主題/描写が多分に含まれていたが、本作ではラジオから再三流れる宇露戦争報道がそれに該当する。実世界との接続を意識させる一方で、作り物めいた演出も多い。実在の作品に対する言及(映画館のポスター、ジャームッシュ作の直接的な引用、登場人物の映画談義)しかり、ユッシ・ヴァタネンがフェイドアウトした直後に映画館の灯りが消える演出しかり。
フィクショナルな描写を含みつつ不器用な男女の交感を描いている点では『愛しのタチアナ』(あの大クラッシュ!)を想起させるが、『愛しの〜』が観客を現実世界に呼び戻すようなショットで幕を閉じるのに対し、本作はいかにも作り物らしいハッピーエンドを迎える。戦争や格差といった現実に迫る恐怖を滲ませつつ、あくまで幸福なおとぎ話にとどまる逃避性。フィクションに対する確かな信頼と安っぽさに陥らない堅固な技量を私は肯定したい。この手触りにより近いのは、意図的にお涙頂戴の浪花節を狙った『浮き雲』(あれも男と女と犬のラスト)だと思う。
カウリスマキ作品の男が断酒することなんてあったっけ?とも思ったが、『浮き雲』のシェフも療養施設に行っていたか。

どうでもいいけど、『ラルジャン』と『ゴングなき戦い』と『穴』と『怪人フー・マンチュー』をかけてくれる映画館は素晴らしいですね。
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