流れ的に難民三部作の3作目かと思いきや、労働者のラブストーリー。しかしその必然性を感じる作品だった。
ラジオからはウクライナ戦争の話が流れ、労働現場では現代的な鬱陶しい管理が蔓延る一方で、労働者たちの日常生活はひと昔まえの様子で描かれる。その対比。ラストを『モダン・タイムス』にすることで、後者に価値を置く視線がダメ押しのように伝えられる。
その日常生活を特徴づけるのは、人々の密な連帯、ではなく、ときには無愛想に思えるほどの繋がり。ホラッパが悩みを相談しようとしても友人はカラオケパブで会った女性のことばかり。でも心の奥底では気にしてくれてる。急に上着を貸してくれる謎の恰幅良男にホラッパは感謝の言葉を述べない。でもすべて伝わっている。そういう粗い繋がり方をカウリスマキは本作に限らず、いつでも魅力的に提示してくれる。
皿とカトラリーを捨ててしまうショットは一生記憶に残りそう。
やっぱりカウリスマキの色彩感覚はぼくの感性に合う。
ただ、紅葉・落葉のショットだけ、他と比べて色味が浮いていてびっくりした。明るいというか。枯れ葉というこれからの冬の時代を予感させるものを、明るく撮るということ。この終末がちらつく世界がそれでも明るいのは、そこを歩くふたり（と犬）という希望があるからなのか。
唐突なThe Dead Don't Dieは笑った。独特なユーモアセンスも健在。いちばん気に入ったのは「彼の妹なの」。あと、カウリスマキの映画を観ると、人生には音楽が必要だよなって気持ちになる。
上映前にご婦人方が「やっぱりあのシャンソンと関係あるのかね〜」「関係なさそうだけど、流れたらうれしいわね〜」と会話していたので、最後に「枯れ葉」が流れて「ご婦人方よかったね☺️」としみじみした。
