MALPASO

関心領域のMALPASOのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
3.5
映画『ZONE OF INTERST』

カンヌ国際映画祭パルムドール。アカデミー賞作品賞、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞、音響賞ノミネート。

『落下の解剖学』にも主演しているサンドラ・ヒュラーが収容所所長の妻を演じている。この人に世界が大注目の年!

冒頭3分真っ暗な画面に音だけ。それが開けると家族が湖でピクニックをしている。聴こえるのは、日常で聞こえるかどうかくらいの音。カエルや鳥の鳴き声。
全編、音に注意!幸せそうな家族、しかし壁を隔てた隣の施設から聴こえるのは?花のアップの映像に遠くから悲鳴が・・・。

舞台は1943年、アウシュビッツ強制収容所の隣にある豪邸。暮らしているのは、所長と妻と5人の子供たち。犬を飼い、使用人がいる戦時中とは思えない優雅な暮らし。
妻が庭の花を手入れする。使用人の男性が手押し車で運んでくる衣類。それはユダヤ人から奪ったものだと思われる。
壁の向こうからは銃声や悲鳴、何かを焼く黒煙が見える。

監督は、ジョナサン・グレイザー。ジョナサンといえばジャミロクワイのヴァーチャル・インサニティー」ミュージック・ビデオ。
映画も変わった内容のものが多くてアート的。今回はアート性を極めた特殊な作品。

3つの立場の人たちの描き方を分ける事で、それぞれをより極立たせている。アウシュビッツ収容所の様子は音のみで映像は登場しない。ポーランド人と思われる少女が夜な夜なユダヤ人にために作業場に食べ物を隠す。そのシーンは反転ネガ加工。鮮明な映像はナチス親衛隊とその家族。

邦題『関心領域』、これまでも映画化されてきたアウシュビッツ収容所の所長・親衛隊将校ルドルフ・フランツ・フェルディナント・ヘス。もちろん今回の役名も同じ。彼は戦後絞首刑に処された。
この映画は収容所で起きる事は音のみで映像では描かない。音が意味するものは、観る人が何かを知っている前提。

会社から転勤を言い渡された夫。妻は今の豪華な社宅住まいがいいからどうにかしてと旦那に言う。そんな感じで、普通の会社の業績アップのために、大量に人が殺せるガス室の開発を計画する。

毎年数本のナチス、ホロコーストものを観る。毎回様々な題材、視点や描き方が登場して驚く。延々長回しで見せる『サウルの息子』と言う作品もあった。そんな中でもこれは、かなり斬新な作り。映画は面白いわけではないし、むしろ退屈。それでもこの先何かが起こりそうだと思うようなハラハラ感。音楽とノイズの効果もあってホラー映画を観ているような気分にさせられる。

ヘスは回顧録で「何か異常な物、途方もない物があった。しかし命令という事が、この虐殺の措置を、私に正しい物と思わせた」と書いている。映画では終盤、自身の行いに吐き気をもよおすシーンがある。この様子をどう思うか?引いた絵ばかりで、登場人物を客観的に描いている。
MALPASO

MALPASO