ゆりこす

関心領域のゆりこすのネタバレレビュー・内容・結末

関心領域(2023年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

観れてよかった体験してよかった、自分の世界への無関心さが怖くなった

自分の城が最優先の嫁、
暴力性に目覚めていく息子、
全てに気づいていて自分に出来る行動を取るレジスタンスの娘、
この家族の異常さに気づき、でも彼らの生活を否定はできないから逃げる選択肢を取る母親

嫁さんが早朝のうちに耐えられず帰ってしまった母親の手紙をすぐ捨てるシーンが強烈に印象に残った
彼女だって麻痺しないとやっていけないのだ
正当な意見はいらないのだ

それぞれがアウシュビッツに対しての関心の持ち方で生きている
タブーのように、触れずに自分たちの幸せを言い聞かせている

「関心領域」というこれほどにぴったりなタイトルはないと思ったらこれはホロコーストのワードで、収容所の周りに住む人たちの地域を指す言葉らしい
なんてピッタリな言葉なのか…

そしてラストシーン、旦那のヘスが嘔吐する。吐瀉物も対して出ず、俯瞰の映像で苦しそうにしている。
その直後に現代のアウシュビッツ収容所の博物館が映り、今まで塀の向こう側で煙や音でしか気配のなかった世界のリアルな「跡」がまざまざと見せつけられる。
ヘスは再度嘔吐する。
彼がこれからさらにハイペースで「荷を焼却」せねばならないこの現実を受け止めてしまったことに私たちは気づく。

1度目の嘔吐で彼の絶望感を感じ取れましたか?
そんな疑問を突きつけられた気がした
試されていた
私たちは私たちの関心がどこまで向いているかを。

ジョナサングレイザーの見せ方が素晴らしかった。
直接的な表現はなく、音響で悲惨な想像力を掻き立てる。
生き生きと咲く花の肥料の灰…。
状況を理解できる人ほど裏で何が起こっているかが伝わり苦しくなる。
手前で幸せそうにプールで家族がはしゃぐ画面の上部で列車の煙が移動していく描写は恐ろしかった。
塀を一枚隔てたこちらとあちら、人間としては何も変わらないのに、この世界のルールだけでこれほどまでに残酷な世界に変わる。