KANA

関心領域のKANAのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
3.6

アウシュヴィッツ収容所と壁ひとつ隔てた隣に暮らす裕福な家族の日常。

本作のキモはサウンド。
一家の穏やかで幸せな日々のごくありふれた生活音に紛れる低く鈍いノイズが段々と耳障りに。
ずっと鳴り続くその不穏なノイズの正体は…。
家の中の会話そっちのけで目より耳を研ぎ澄ませると、銃声や悲鳴も聴こえてくる。
ただ、意識を集中させないと認識できないほど客観的な響かせ方。
感知して戦慄するか、ただのノイズとして慣れてしまうのか。

撮影もクロースアップはほとんどなくて、固定カメラでのロングショットが圧倒的に多く、俳優たちの表情の微妙なニュアンスまでは捉えにくい。

音響にしても映像にしても、ヘス一家或いはユダヤ人のどちらかに片寄らないニュートラルな視点で、私たち観る側に「関心領域」を試させているよう。
展開を期待したり、ただぼーっと眺めて想像力を働かせないでいると、家族のなんてことない生活をスケッチしただけの、なんにも響かない映画だと思う。

綺麗事じゃなく、私ならあの妻みたいに隣で行われているホロコーストに無頓着ではいられない。
夜空を見上げても、煙突が視界に入ったら、あのノイズが聴こえたら、異臭を感じたら、ロマンチックに感じられないし眠れない。
だから妻のお母さんの反応はよくわかるし、夫ルドルフの赴任先にもついて行ったと思う。

でも、それは映画鑑賞と認識してるからかな?
この世のあらゆる事に敏感になり過ぎて自分の人生を生きられなくなるのは本末転倒。
この家族は与えられた環境で自分たちの人生をイキイキと生きているに過ぎないともいえるわけで。

ジョナサン・グレイザー監督は、今平和な環境で暮らせてる人たちをこの家族に投影してもいるんだろうか。
ウクライナにしてもパレスチナにしても、その憎しみの連鎖はこのちっぽけな私たちの惑星上で起きている…

エンドクレジットの音楽は耐え難いほどストレスフル。
本作で一番ダイレクトにホロコーストを象徴してる気がした。

観終わって映画作品としてすごくよかったかというと、、個人的には正直微妙な感触。
もう少し何かが欲しかった。
人間のそれぞれの主観や関心/無関心については普段から考えることがあるので、アウシュヴィッツの隣という特異な設定以外は自分の中で新鮮味がないのも大きいかも。
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