このレビューはネタバレを含みます
2024年53本目
言葉にするのが難しい…
音響はもちろん、演出の凄まじさよ…
ルドルフ・ヘスの死亡前の手記にあった「世人は冷然として私の中に血に飢えた獣、残虐なサディスト、大量虐殺者を見ようとするだろう。けだし大衆にとってアウシュヴィッツ司令官はそのような者としてしか想像されないからだ。彼らは決して理解しないだろう。その男もまた、心を持つ一人の人間だったということを。彼もまた悪人ではなかったということを。」
これを描き切っていたと思う。
最初見にいく時、どんなに酷い人たちの話なんだろうって思って見に行った。
でも実際は、知らないふりをしたい、1人の人間だった。
ただ関心がないのではなく、関心がないと自分自身を騙してるような感じがすごかった。銃殺されるところを見て、そっぽを向いてそのままモヤに包まれていくシーンが印象的
凄惨な描写が直接されていないのも、彼が見ないようにしていたからかな
前半でこの家族の異質さ、ユダヤ人の灰を肥料にしていたり、ユダヤ人の服を持って帰ったり。そういったどこか人間の倫理観から外れたところを映して本当に関心がないんだって思わせてからの中盤でそれぞれのキャラクターの人間臭さ。本当は農地をやりたかったとか、命令通りに動いているだけだとか、そうして最後、現代のアウシュビッツの清掃の様子を映して本当に現実にあったことであり、この映画を見ている私たちもルドルフたちと同じで関心領域から外れている場所で平和に生きている人間だと言うように見つめてくるルドルフ。素晴らしい映画だった
世界のどこかで紛争が起きていても、我々の国が脅かされてない限り私たちは平和に日々を生きている。ニュースで流れてきてもどこか他人事なところがある。我々もまた無関心の中に生きているのだと認識させられた。
ルドルフをアウシュビッツ所長の鬼畜と断言することはできないのだとも思った。もちろん許されないことをしているが、職務であり、その国の常識でもあり、本当に心からしたかったことなのか、せざるを得なかったことなのか。きっとどこか思うところがあって見て見ぬ振りをしていたのだろう。決して彼は善人ではないだろうが、そこを抜きにしても、完全に悪人だと今まで思っていた自分の浅はかさも露見してしまった。
いい映画体験でした