Yoshishun

関心領域のYoshishunのネタバレレビュー・内容・結末

関心領域(2023年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

“関心を失いかける単調さ”

本年度アカデミー賞国際長編映画だけでなく、本命と言われた『オッペンハイマー』に打ち勝ち音響賞までも獲得したジョナサン・グレイザー監督作。アウシュヴィッツ強制収容所の隣で幸せな家庭を築き上げた所長ルドルフとその家族。阿鼻叫喚と銃声の響く地獄がすぐ側にある中、どこにでもいる普通の人々の日常が淡々と描かれる。

本作はやはり、音の拘りを感じられる作品だ。ルドルフ含む家族が一家団欒している中、家の壁が薄いのかと突っ込みたくなる程に、収容所からの叫び声、怒鳴り声、そして銃声が聴こえてくる。何不自由ない平和な暮らしの隣が、不自由しかない地獄が展開されているのである。収容所への門を境界にし、その異常ともいえる場所への無関心さに拍車がかかり、そこにナチス・ドイツ軍が持ち併せるユダヤ人への差別意識が加わり、自身に危害が及ばない限りは異常な世界への興味など薄れてしまうものだ。実際観ている側からしても、終わらぬウクライナやガザへの関心は日々薄れていることは確かで、いつか自身に訪れるかもしれない出来事から目を逸らす危機感を強烈な演出を以て提示しているように思う。

音以外にも、映像からも静かでグロテスクな暴力性を表現する。ユダヤ人から奪取したであろう洋服を自分の物のように着回し、子どもたちが滑り台で楽しく遊んでいる背景には収容所の焼却施設からの黒煙が上がり続ける。また、なんてことの無い家庭菜園で使用されていたのが焼却されたユダヤ人の灰であったり、川遊びしてたら人骨と思わしき物が流れていたりもする。思えば登場シーンの殆どで泣き続ける赤ん坊というのも、本作における不穏さの一部として描かれていた。

そんなどこまでも不穏さと暴力性が拭えない、鑑賞者の精神をジワジワと破壊しにかかる本作だが、先述の演出がワンパターンであるため、後半には完全に飽きてしまった。音が要といえる作品なだけに、似た銃声と叫び声ばかりが聴こえ工夫が見られないのも問題に思える。また、演出に注力を注ぎすぎて肝心のストーリーには全く入り込めない。史実を知らないから、とかそんな話ではなく、単に所長の家族のどうでもいい日常と仕事の様子を単調に描き過ぎていて劇的な何かが起こらないためでもある。電気を消す下りも前半と後半で2回も似たシーンを見せるのにも手数の少なさが露見していて退屈だった。それに転属するか否かだけであんなに長々と引っ張るのも中身の無さを露呈しているようなもの。
また特筆すべき欠点としては、露骨なラストシーンだろう。突如現代のアウシュヴィッツに纏わる資料館へと舞台が切り替わり、劇中での痴話喧嘩の狭間で多くの尊い命が奪われていたという人間の愚かさや無関心さを皮肉っているように思えたが(ルドルフも何も見なかったかのように静かにその場を立ち去る)、監督の伝えたいメッセージを舞台を飛躍してまで届けようとする露骨さが鼻についた。いくら不協和音塗れのエンドロールで誤魔化そうが、あのラストシーンで一気に本作への関心度が薄れてしまった様に思う。

白状すると5分ほど意識が飛んでしまった程には本作に対する関心が薄れかけ、加害者ではなく、あくまで普通の人々としてナチスを描いたという意味では斬新だが、ワンパターン過ぎな演出に退屈さを覚えたのも事実。A24との相性はあまり良くないのだが、本作も例に漏れず惜しい作品だった。
Yoshishun

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