本作はドイツ語映画であり、アウシュヴィッツ強制収容所のルドルフヘス所長の家族に焦点を当てている。ヘス所長は1940～43年にアウシュヴィッツを運営し、その間推定110万人が殺害されたという。その怖すぎる内容とは裏腹に、引きの風景を真正面から切り取るショットがどこまでも美しい。その美しさが塀の向こうで行われている行為の残酷さを際立たせていると言ってもよい。それはまるでエグルストンやスティーブンショアら、ニューカラーの写真家たちの作品を見ているような経験で、大袈裟でなく目眩を起こしそうだった。監督も述べているとおり、これは過去の人々による過去の出来事ではなく、現在ガザなどで起きていることと無関係では全くない。無関心が問われているのは無論、今を生きるわれわれ自身に他ならない。
