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関心領域のayellowbirdのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
4.5
タイトル “The Zone of Interest (関心領域)” は、第2次世界大戦中、ナチス親衛隊がポーランド・オシフィエンチム郊外にあるアウシュビッツ強制収容所群を取り囲む40平方キロメートルの地域を表現するために使った言葉で、映画の中では強制収容所と壁一枚隔てた屋敷に住む収容所の所長とその家族の暮らしを描く…。
カンヌ国際映画祭では、パルムドールに次ぐグランプリに輝き、第96回アカデミー賞では、作品賞など5部門にノミネートされ、国際長編映画賞と音響賞の2部門を受賞。

プロローグの不協和音が、観客を無関心領域に誘う作品! 美しい牧歌的な風景とそこで使用人を抱え、豪勢な暮らしをするヘス一家。一見、ホームドラマのように映るが、邸宅の背後には工場のような施設と煙突から立ち上る黒煙。そして、時折聞こえる銃声と叫声。そのコントラストから、これはホームドラマではない何かを描いているのだと気付かされる。また、ヘス夫人が羽織った毛皮のコートから、本人の物ではない口紅が出てきたり、机上に下着が山のように積み重ねられ、住人たちが我先に下着を持っていく光景は、一家が他人から搾取した物で潤っていることを暗示する。
そんな暮らしに、一家は満足し、こんな時代に贅沢が出来ることを感謝する。ヘスが転勤になっても、夫人は今の暮らしを手放したくないと、ヘスの単身赴任を希望し、ヘスもそれを受け入れる。家族にとっては善き夫であり、善き父親であるヘスの姿を見ると、やはり、これはホームドラマなのではないかという錯覚に陥る。
そして、意表を突くラスト。これは演出なのか、ヘスの予知夢なのか。しかし、単身赴任を終えて家族の元に帰るヘスの喜びに満ちた表情が写し出されると、そんなことはどうでも良いことのように思え、再び無関心の回廊に迷い込んでいく。
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