山田

関心領域の山田のレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
4.6
凄まじい破壊力と射程を持つ映画で、自分はかなり食らってしまったので今日は仕事そっちのけでホロコーストについて改めて調べている。
また観客の居心地が非常に悪くなるタイプの映画なので、体調を万全にして観ると良し。様々なシーンが響き合う構成で且つ説明的な要素が徹底的に排除された作りで、一度の鑑賞で全てを拾い切るのはかなり難しいという印象を受けた。多分自分も全然拾えていない。
シンメトリーを多用して不気味さを増幅させる画作りや家庭を監視しているかのように置かれた定点カメラ、とあるギョッとするような撮り方(ここでは伏せるが)、過去/現在を反復する試みなど様々な仕掛けが施されている。
中でも特筆すべきはサウンドデザインで、音だけで表現された虐殺の風景というのはこんなにも恐ろしいのかと心底震え上がった。"映さない"という映画表現が時として最も効果的であることを示す新たな好例の一つであり、またホロコースト映画に永遠に付き纏う表象不可能性という問題に対する斬新なアプローチでもある。この下手なメッセージ性が入り込む余地を与えないアプローチからは、作り手の誠実さと正義感が感じられ、好感が持てる。また非常に難しい役所ばかりだったと思うが、ザンドラ・ヒューラーを始め役者陣は本当に素晴らしかった。
作り手の話題では、ジョナサン・グレイザー監督のスピーチに対するハリウッドの反応が正に"関心領域"の具現で、これまた鬱々とさせられる。
とは言え、仮に自分が他人を迫害する立場に立った場合には、所長とその家族同様に"関心領域"を設け、状況にすっかり慣れていくだろうという自覚はあるので、自戒の念を込めてもう一度劇場に足を運ぼうと思う。
山田

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