冒頭より小綺麗な庭と手つかずの自然に囲まれた邸宅に暮らす家庭が映し出される。
家族達はなんてことない素朴な幸せを享受しているかに思えるが、観客はただひとつの違和感に気づく。
この生活はひどく、“うるさい”と。
物語はアウシュヴィッツ強制収容所の真隣に構えていたルドルフ・ヘス所長宅が舞台。
邸宅での暮らしが映像の大半を占めるが、そのすべてのシーンで常に地鳴りのような低音のノイズが乗っていた。
耳を澄ますと環境音の中に、叫び声や銃声、何が蠢いてるのか想像もつかぬ轟音が入り混じる。
最悪のサウンドスケープである。
オスカー音響賞も納得の、音でその異常な時代性を映す一作となった。
『アンダー・ザ・スキン』などで知られるジョナサン・グレイザー監督は初鑑賞。
加害者側を過度に邪悪に描かず、事実のみを今の文脈で映すことを目指したという。
確かにフィクション的な悪性を削ぎ落とした映し方ではあったが、あの環境の中“無関心”を貫く一家の姿はむしろその歪さをありありと表す仕上がりでは。
音響だけでなくミカ・レヴィによる音楽も素晴らしい。
基本的には単なるスケールのリフレインだが、何層にも音が重なっており、その音ひとつひとつが作り込まれているようなエンドクレジット。史上最高に居心地が悪かった。
全ての問題は事実を知ったあとの“関心”。
ガザは?