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関心領域のyassoonのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
4.0
強制収容所の隣に住む事に耐えられる人と耐えられなくなる人。その違いはどこにあるのだろうか。人としての心、人間らしさはどうやって失われるのだろうか。非日常の連続が積み重ねられた末のことなのか、日常が徐々に変化し感じ方が麻痺していったのか。

暮らしていて目は閉じられるし、耳は塞げるとしても、終日部屋を締め切って閉じこもるわけにもいかず、鼻から呼吸をすれば何かしらの匂いを感じざるを得ない。強制収容所でフル稼働する焼却炉から発せられた、鼻腔にこびりついて消えない匂い。それを少しでも和らげるための庭での花の栽培だったのかもしれない。いずれにしても、人間は自分にあまりにも都合の悪いものを意識から消す事が出来る生き物だが、それはダメージを受けないための自己防衛本能だったりもするので、一概に否定はできないのだけれど。

自分にとって安全なエリアの外側がどうなっていても、何が起こっていても構わない。それで自分は安泰だと思っているが、実際は違う。外側に無頓着な者は、内側に注意を払えない。息子達は残虐性を兼ね備えて育ち、娘は眠れず、アルコール浸りの乳母に赤ちゃんの育児を放棄される。あらゆるものに目を瞑った結果が自分に降りかかる。ヘス所長もヘートヴィヒも確実に内側から蝕まれている。

さらに、我々が生きている現代とも全く地続きである事を思い知らされる。今まさに「知らなかった」では済まされないことが起きていて、それに対して気付かないフリをしたり、行動を起こさなかったりする事がどれだけ事態を悪化させるか。対岸の火事とか自分に関係ないとか思わない方がいい。巡り巡って何らかの形で影響が出てくる。それも悪い方向に。

ヘス所長の視線から現代に移ったシーン、あれだけの殺戮があり犠牲を払いながら、我々はそれをただの過去の歴史の1ページとして風化させてはいないだろうか。また同じ道を繰り返さないよう、博物館で保存するだけではなく活かしているだろうか。残念ながらNOと言わざるを得ないし、向こうから覗いたヘス所長から「今、本当に俺よりまともだと言える?」を問われている気になったし、『ではどうすれば?』を一人一人に考えさせる作品だった。そしてその気持ちや過酷な状況下にいる人々の苦しみを数日経ったら忘れてしまう(もしくはこんな事を書き連ねて満足してしまう)、我々のような人間に向けた作品だ。
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