金春ハリネズミ

関心領域の金春ハリネズミのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
5.0
※この星取りは、観覧注意・危険度を表します。

また、以下この乱暴な私評は、見る人に不本意な不快感を覚えさせてしまう可能性があるので読んでいただなくて結構。
あくまで個人の視聴記録としてここに留めさせてください。

とはいえ、ちょっとまだ頭の整理が追いついていない状態なんですけれども。

とかく、事前情報とかも相まって、本編開始早々から(特に音劇によって)吐き気と動悸を覚える感覚に包まれ、気づけばそのまま映画が終わってしまいました。
終始唖然。
思い出すだけでも息が苦しくなって、身体も小刻みに震えます。

本作に登場する彼らの、関心外にある塀の向こうの世界。
2024年現在になってもなお語り継がれる20世紀最大級の蛮行を、「見せる」のではなく、「感じさせる」のが「関心領域」の醍醐味でしょうか。

ドイツ人家族の愛すべきマイホームから望むアウシュビッツ強制収容所。
その中で何が起こっていたのかを知るのには、今の時代あらゆる情報で溢れていますよね。
アラン・レネ、V.E.フランクルの同名作「夜と霧」。
ネメシュ・ラースロー「サウルの息子」。
シュロモ・ヴィネツィア「私はガス室の「特務任務」をしていた」。
ジョルジュ・ディディ=ユベルマン「イメージ、それでもなお」。
今日マチ子「アノネ」。
クロード・ランズマン「ショア」。
などなど、枚挙にいとまがありません。
こうした作品に触れれば触れるほど、この映画で起きている現実が、とても恐ろしく、残酷無慈悲な地獄絵図に見えてきて、とても平常心ではいられない。

私は特にあの家のお母さんが怖かったんですね。ザンドラヒュラーの手腕も光って、彼女が日々を文化的、人間的な集合値足る「理想」の生活にしようと努めれば努めるほど、外側から聞こえてくる、聞くに耐えない怒りと恐怖のノイズが一層際立って聞こえてくるんです。
この構造は本当に恐ろしいです。

何が恐ろしいって、まさに彼女の姿がまるで私自身を見ているように思えたから。
人は何かしら何処かで折り合いをつけて生きていかないと身体が持ちません。

わかりやすい善悪のレイアウトは簡単で親切です。
ナチスドイツが悪どい集団であったのは火を見るよりも明らかだから、今でもこうして思いっきりドイツ人を矢面に立てて、さも「巨悪の根源」であるかのように彼らにリンゴやじゃがいもを我々は力一杯ぶん投げ続けています。

ゲルマン民族が悪で、ユダヤ人が善。


でも実際はそうなんでしょうか。

2023年10月7日を皮切りに、ユダヤ人国家イスラエルは、パレスチナ自治区ガザに侵攻しました。
「人質救済とテロ組織ハマスの殲滅」という名目上、そのジェノサイドは現在でも続き、未だ多くの子どもが殺されていますか(ガザでは人口の45%が14歳以下の子ども)。

それぞれの立場や見え方で歴史というのは大きく変わるのは事実ですから、この度の問題については色々な意見があると思いますよ。
ただ、それはまるでナチスドイツ下の「ホロコースト」同様、「天井のない監獄」ことガザの、70年以上にも及ぶ無惨な現状、それに至る歴史に目をやれば本当にやるせない気持ちになる。
当事国イスラエルはもちろん、それらにまつわるアメリカ、イギリス、そして国連等がこれまでに行ってきた(それはまるで本作のように、見て見ぬふりをしたことによる)政策の数々が、現状を然としてきた歴史に、心から幻滅してしまうんです。

パレスチナを長年にかけてじわじわと痛めつけているイスラエルという国は、悲しいかな、ヨーロッパ系ユダヤ人による国家です。
「関心領域」の、あの塀の向こう側で命からがら戦い続けた人々が、後に自分たちがされたのと同じような蛮行を、今度はパレスチナ人にしてしまっている。

イスラエルに暮らす人々は今、この現状をどう考えているのでしょうか。
それは、本作を見れば明らかなのかもしれない。
文化的で人間らしい暮らしを求めて、その関心領域で生きているんでしょうか。そしてその入植地の向こう側から泣き叫ぶ子どもたちの鳴き声、耳を塞ぎたくなるような銃声が聞こえてくるのでしょう。

問題は何一つ解決していない。
本作に、はっきりいってある種の絶望を覚えてしまうのは必至ではないでしょうか。

何が怖いって、パレスチナ問題をはじめ、世界のありとあらゆる場所で今もなお事件や戦いがひっきりなしに続いていて、それに私自身がどれほど関心を持って向き合うことができているのかということについて。
ガザの現状を知ったのはつい最近のことだけど、彼ら当事者からすればこの問題は70年以上続いて、70年以上ずっと苦しみ続けているんですよね。。

むずかしいところですが、
自分も他人事ではないという戒めは胸に、正気を保っていきたいものです。

本作のような人間には死んでもなりたないですからね。

https://youtu.be/8TtXbIi446I?si=s70Ik7cBG4u7x0qL