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関心領域のmraのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
3.6
2025年/16作目
一切説明なし。余白を情報と想像力で見つめる映画だった。

サラリーマンのお父さんと専業主婦のお母さん。子供たちとわんちゃん、そしてメイドさん。裕福な家庭がただ幸福な何の変哲もない毎日を過ごすだけの話。
ただ一つ事実としてあるのは、隣がアウシュビッツ強制収容所があるということ。

なんの事前情報もないまま観れば「何の映画なんだ?」とただ退屈な話だけど、その一つの事実を知っているだけで見え方がまるで異なる。
ただ情報がないとわからないぐらいに、その一家は隣の環境に「無関心」ということが分かる。

大勢の人の悲鳴に銃声、明らかに普通の街では聞こえてくることのない音が生活音として溶け込んでいる。
でも家族たちはその話題を一切口にしない。まるでそんな場所がないかのように普通に生活している。
しかもお父さんはその収容所の所長。なのにこの無関心さ。

お父さんが昇進して家族みんなで引越しになることを伝えた時には「やっと掴んだ理想の暮らしを手放したくない、あなただけで行って」とまで言い出す。とんだ平和ボケもいいところ。
「こんな場所に長くいるのは‥」と何かしらの嫌悪感や恐怖心に煽られていてもおかしくない環境なのに、無関心でなければこんな台詞は出てこない。

これは「恐怖」というよりも「残酷」という言葉が似合うと感じた。この残酷さは形を変えて現代にも引き継がれている。
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