ベルベー

ゆとりですがなにか インターナショナルのベルベーのネタバレレビュー・内容・結末

2.8

このレビューはネタバレを含みます

怖いなら触れない方が良いし、触れるならちゃんと勉強すれば良いのに、てか勉強してなくて理解できないから怖いんじゃないの?と、日本のオジサン達の弱点を指摘する良い材料という意味では、良かったんじゃないですか「ゆとりですがなにか インターナショナル」。ここまでで「良い」という言葉を四回使いましたが全然良い映画ではありません。面白いけど。

センシティブな話題に触る手つきがビクビクしてるのがまず残念。ビクつきながら触れた結果やっぱり間違ってるのが更に残念。小学生に対するクィア教育の話なんて特に。LGBTなんて小学生にはまだ早いよねー!って結論、誰か止めなかったのか。言いたいことは分からんでもないけど間違ってる。小学四年生が「まだ恋愛とか早いよねー!」で誤魔化されるか?タイの男の子を都合良く扱いすぎ。反対にアメリカの男の子(とその家族)は、訴訟訴訟押しが強い!とネガティブ一辺倒な描き方で、おおお反米か!?多様性と言いつつ子供巻き込んでアメリカ様にケンカ売ってんのか?この出来で??てな感じ。

クィアについてはマジで触れなきゃ良いのにレベルのことしか出来ておらず、例えば黒人のゲイが登場するわけだが彼は初対面の日本人男性に「僕はゲイだけど」と開示してくれる。うーんこの「LGBTの人は当然にこちらに情報を開示してくれる」「でないとこちらも対処の仕様がない」と言わんばかりの…いや言ってないからセーフだけど、「俺よく分かんないけど、最近はこうしないとダメでしょ?」というダサいオジサンの手つきだよ。「よく分かんない」で済ましているのがダサい。

セクハラパワハラを糾弾しているわりには主人公達のスケベ仕草を放置しているのもなあ。いや良いんだよ、スケベは否定しないよ。その結果パートナーにシバかれてるだけなら気にもならん。でも例えば、教育実習生の胸のサイズをレビューしたりおっぱいおっぱい連呼してる連中がセクハラなんてアウト!と言っても説得力あるか?というお話。そいつらがセクハラ糾弾するなら自分の言動への反省とワンセットであるべきで、それが出来ないならそいつらにセクハラ糾弾させるなよという。

そしてそれは世の中の「俺よく分かんないけど、最近はこうしないとダメでしょ?」というダサいオジサン達にも当てはまる。セクハラダメだよね〜って自分のセクハラ的態度を改めない奴らが言っているとこう、なんだ、イラつくのよ。じゃあセクハラダメとか言うなよ!開き直って大悟みたいに生きてくれた方がマシだわ!って。クドカン、今イラつかれてんぞ。少なくとも俺に。

これもっとなんとかなるはずなんだよねーだってイラつかないオジサンもいるでしょ世の中には沢山。坂元裕二なんてまさにそうだし、かつてクドカンと同じく「人との違い」をイジる芸風だった三谷幸喜も近年、多様性については丁寧に描いているじゃない。これクドカンと何が違うって、多分勉強してるかしてないか、それだけの差だと思うんです。感性だから仕方ないっていう話じゃない。

インタビュー等を読んで理解したことを記すと、坂元裕二は物語を作る際に語る対象を無理に広げず、たった1人にフォーカスする。でもその1人を語るために徹底的にリサーチする。三谷幸喜は自作の表現についてどう思うか、問題がないか若いスタッフの意見を尊重する。これじゃないか今のクドカンに足りてないのは。知る姿勢。

原作脚本家がこのスタンスなので、ドラマ版の時代と大きな違いとしてのZ世代を出しながら彼等と相互理解を深めることはなく、「Z世代のZは絶望のZでしょ?」と言われたまんま放置される。ゆとり世代と十把一絡げにされる若者の悲哀を描いた作品でその態度はいかん。Z世代が絶望しているとしたら、その一端はこういうオジサン仕草に対してだぞ。

放置と言えば、登場したきり1ミリも回収されない上白石萌歌だけど、「使い方もったいねー!」で笑って済ませれば良いが、そうもいかんぞあの描き方だと。なぜなら彼女は先輩教師の加藤諒からセクハラを受けているから(もう分かったよ!松坂桃李が彼女のバストサイズレビューしてたのは見逃してあげるよ!)。そんでその後木南晴夏がセクハラ被害に対してブチ切れる展開を入れているから。じゃあ上白石萌歌も救ってあげないとダメじゃないか。加藤諒をシバかないとダメじゃないか。それができないならそもそも加藤諒の役なんて出さない方が良いのだ。いなくても全く問題ないし。

韓国ほかアジアの描き方もなあ…遜っているといえば聞こえは良いが、日本人の負け惜しみにも見える微妙な塩梅で、国内トップクラスのショーランナーがそんな態度なのは情けなくない?最早アジア情勢を揶揄する余裕なんてないことは、クドカン自身気づいているように見えたが。それでも揶揄を止めないのは良く言えばゼロ年代クリエイターの意地、悪く言えば中年の負け惜しみ。

と文句を垂れつつ然程退屈せず楽しめちゃうのがまた良いのか悪いのか。小手先のギャグにしっかり笑っちゃうんだけど、クドカンってそれだけのクリエイターではなかったはずなんだけどな…ヒドい時はヒドいけど。でも「ゆとりですがなにか」って2016年にドラマやった時ちゃんとテーマ的にも評価されていた作品のはずで、しかし評価は高いとはいえ別に「あまちゃん」みたいに大ヒットしたわけでもないドラマをわざわざ2023年に映画化してこの出来はどうなんでしょう。

キャストはしっかり期待に応えてくれる分勿体無さも強まる。岡田将生と松坂桃李の身体を張ったコメディアンぶりには頭が下がるし、顔だけで爆笑をかっさらう仲野太賀は同世代俳優の中でも特異な存在と化してきたし、「妊娠しました(^_^)v」だけで面白い吉岡里帆も流石だし、安藤サクラ!安藤サクラがちゃんと手を抜かずに芝居してくれるのでストーリーのダメさが浮き彫りになってしまう!

でもMVPは木南晴夏ということでお願いします。柳楽優弥もしっかり面白いんだが、3人の男がメインで彼だけ背景のドラマが希薄で狂言回しにしかならないバランスは気になった。あと今回の映画化で一番得したのは多分感覚ピエロ。
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