竜どん

ハロルド・フライのまさかの旅立ちの竜どんのレビュー・感想・評価

3.7
もっとコメディ色の強い感動系ロードムービーを想像していたのだが、「歩く」という人間にとって当たり前の行動を通して、戻らない時間への後悔・思い通りにはいかない人生への歯痒さを描くヒューマンドラマ。

思いの外唐突に始まる英国縦断の旅。
過去の過ちの精算は可能ならば誰もが決行してみたい人生の一大事業。そこに至る人間は存外少ないのが現実。要はその機会が巡ってくるかどうか。

愛息子との軋轢と惜別、それを発端とするパートナーとの冷え込み、恩人への感謝の躊躇
…旅路の中ウィルフとの諍い、殉教者集団からの離脱は想いを伝えることの難しさを再度思い知る追体験の様だ。

クイーニーとの再会はハロルドが求めていたものとは違ったかもしれないけれど、この旅立ちとその道程があったからこそ無為に思えた人生にも振り返れば大切なモノがあったことに気付けたのだと思う。そしてハロルド自身だけではなく妻の思いにも。
人生は苛烈。しかしそれだけではない。
たとえそれがクリスタルではないガラス玉を通したものであろうと、「光」はそこに確かにあるのだから。

追記
劇中ハロルドが関わる人々が程度の差こそあれ皆優しくて羨ましくなる。あんな風に見知らぬ人間に声掛けをする光景が言っちゃ悪いが現代日本では想像できない。

私見ではあるがこの手の一人挑戦に随伴してくる赤の他人には違和感を覚える。ハロルドの如く本人にとっては一人だからこそ意味があるのかもしれんのだから、最後までひとりで行かせたれよ。
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