サマセット7

タイタニックのサマセット7のレビュー・感想・評価

タイタニック(1997年製作の映画)
4.5
監督は「ターミネーター」「アバター」のジェームズ・キャメロン。
主演は「インセプション」「レヴェナント:蘇えりし者」のレオナルド・ディカプリオと、「エターナルサンシャイン」「愛を読むひと」のケイト・ウィンスレット。

[あらすじ]
1912年、当時最大級の豪華客船タイタニック号は、イギリス・サウサンプトンを出港後、処女航海にて北大西洋に沈没。乗客、乗員2200人の内実に1500人が亡くなるという、当時史上最大の海難事故となった。
84年後の1996年。沈没したタイタニック号に眠るとされるダイヤモンド「碧洋のハート」を求めて、深海の調査を進めるチームは、船内にて女性の裸体の絵を発見する。
そのニュースを聞いて名乗り出た老女(グロリア・スチュアート)は、84年前の出来事を語り出す。
それはタイタニック号出港の日。
若き日の彼女、上流階級の娘ローズ(ケイト・ウィンスレット)は望まぬ政略結婚のため、婚約者(ビリー・ゼイン)と共にアメリカ行きのタイタニック号の一等客席に乗り込む。
そこでローズは、三等船室の切符を手に入れた若者ジャック(レオナルド・ディカプリオ)と運命的な出会いを果たす…。

[情報]
実在の海難事故をもとにした、ロマンス×海洋パニック映画。

アカデミー賞の最多授賞記録は11部門である。
現在までにこの記録を残した作品は3作品。
1959年「ベン・ハー」。
2003年「ロード・オブ・ザ・キング王の帰還」。
そして、1997年の今作である。
いずれも、その時代を代表するスペクタクル超大作、という共通点がある。

まさしく今作は、全長269メートル、高さ53メートル、全幅28.2メートルを誇る巨大客船タイタニック号が乗客乗員2200人を乗せて氷山に衝突し、その多くを道連れに沈没する様を、克明に映像化した、映画史上に残る一大スペクタクル大作である。

1991年の「ターミネーター2」で5億ドルを超える大ヒットを記録したジェームズ・キャメロン監督は、1995年、長年企画を温めていた今作の製作に取り掛かる。
キャメロン監督の今作に賭ける異常な意気込みや拘りは伝説的である。
彼は沈没船の撮影のため潜水艇に乗り込み、タイタニック号の半分を再現したセットを作り上げ、沈没シーンの撮影のために120トンの水を流し込み、150人の専門のエキストラに当時のマナーや所作を身につけさせた。

製作費は、当初の用意を大幅に超過し、当時最大の2億ドルに達した。
上映時間のカットを求められたジェームズ・キャメロンは、自らの収入の返上を申し出たという。

その結果、今作は当時破られていなかった興収10億ドルの壁を大幅に上回る18億ドルを超える初動売上を達成。
同じジェームズ・キャメロン監督の「アバター」に抜かれるまで、史上最も興収を上げた作品に君臨し続けた。
インフレの進んだ現在においても、再上映などでさらに興収を伸ばし、トップ5の興収(20億ドル)を誇る。
日本では、2025年現在においても、実写映画では史上最大の興収を上げた作品である。

アカデミー賞で授賞した11部門は、作品、監督、撮影、美術、主題歌、音楽、衣装デザイン、視覚効果、音響効果、音響、編集。
ノミネートは14部門に及び、これも史上最多である。

今作は、レオナルド・ディカプリオと、ケイト・ウィンスレットを、トップスターに押し上げた作品でもある。
2人とも、比較的マイナーな作品中心に出演していた役者で、今作はオーディション採用であった。
両者共に、今作ではオスカーの授賞を逃したが(ケイト・ウィンスレットはノミネートのみ)、後年いずれもオスカーを獲っている。
今にしてみれば、2人とも、ハリウッドを代表する名優となった。

今作でのジャックとローズの悲恋は社会現象となり、レオナルド・ディカプリオは日本では「レオ様」と呼ばれアイドル扱いされた。
ディカプリオは今作で染み付いてしまった「理想的な美青年」のイメージに苦労した、という。

[見どころ]
あまりにも美しい、若き日のディカプリオ!!
キャメロン作品のヒロインを体現する、生命力溢れるケイト・ウィンスレット!!!
ジャックとローズのロマンスとその結末は、何度観ても胸を焦がす!!!
映画史上最大級のスペクタクル、タイタニック号沈没シーン!!
細かいところまでこだわり抜かれた時代と船内の再現、そのリアリティ!!!
圧倒的な、「水」の怖さ!!!
沈みゆく船の中に見える、圧巻の群像劇!!
そして、さすがキャメロン、という地獄絵図!!!

[感想]
何度めかの鑑賞。
楽しんだ!!!

3時間14分の上映時間のせいで、なかなか見返す気になれない今作だが、見始めるとあっという間。
映画史上最高のヒットメイカーによる、こだわりの結晶に圧倒される。

作品は、ぴったり半分ずつに分かれる。
ちょうど上映時間の半分あたりで、タイタニック号は氷山に激突する。
前半は、映画史に残る瑞々しい恋愛ドラマ。
後半は、映画史上最高級のスペクタクル・パニック・サバイバル映画と化す。

今作が、映画史上稀に見るメガヒットとなった理由は何か。

幾つもの要因があるだろうが、ヒット請負人ジェームズ・キャメロンは、ロマンスとパニック、というミックスジャンルそれぞれに、大きな軸を作り上げた。

まずは、ロマンス。
これは、要するに、ロミオとジュリエットである。
身分違いの、禁断の恋。
許されないからこそ、燃える思い。
束縛され、どうしようもない閉塞状態の姫の前に現れる、野生的な王子。
しかし、状況は2人の恋の成就を許そうとせず…。
シェイクスピアを挙げるまでもなく、王道ど真ん中のロマンス!!!

このベタと言えばベタな脚本が、映画史に残るロマンスとなった理由は、演者の資質に因るところが多いだろう。
ファーストシーンの、ケイト・ウィンスレット、レオナルド・ディカプリオのそれぞれの溌剌とした美しさときたら!!!
そして、2人の織りなす、名シーンの数々!!
出会いのシーン!
上層の退屈なディナーと対照が見事な下層のダンス!!!
映画史的に有名な船の最前端の、「飛んでるみたい!!」のシーン!!!
冒頭と繋がる、絵描きのシーン!!!

特に今作のディカプリオの美しさは、神がかっている。
こういうのを、映画の奇跡、と言うのかもしれない。
世の人々を、メロメロにしたこと疑いない。

そして、パニック。
主に2人のロマンスを中心に描いた前半から、後半は一気にギアを変え、タイタニック号の沈没の全容を表現するし尽くす。
視点は広がり、それぞれ短いシーンながら、乗客それぞれや、乗員たち、船長、設計者、演奏者、神父に至るまで、緊迫のドラマが描かれる。

一つ一つのディテールが丁寧に撮られているゆえに、崩壊の迫力、恐ろしさ、緊迫感は、たしかに見ものである。

T2のジェームズ・キャメロンが、史上最大の製作費をかけて、最新技術で蘇らせた、歴史的海難事故の真実!!という惹句は、多くの人の興味を惹きつけた。

2人の主演の起こした奇跡的な煌めきと、監督の執念の結果創造された映画史上最大のスペクタクルの両軸が、史上屈指の興収を生んだのだろう。

今回の鑑賞で、私の抱いた主な感想は、若き日のディカプリオがマジで美しい、というもの。
みんな惚れるのも納得だ。

そして、終盤の地獄絵図が、マジで半端ない、というもの。
ここまでのモノだったか、と思わされる。

テレビドラマ「メア・オブ・イーストタウン」で、40代の刑事をリアルに演じてエミー賞を獲ったケイト・ウィンスレットを観た後、今作を観ると、また感慨深い。
彼女は演技が上手い、と改めて気付かされる。
上流階級に囲まれた時の、死んだ目。
対称的な、ジャックを前にした時の、生き生きとした目!!
自らの人生を生きることを決めた後の彼女は、たしかにキャメロン作品の強いヒロイン像に連なるものがある。

ラストのテーブル問題は、個人的には、無粋なこと言ってんじゃねえ!!という立場である。

[テーマ考]
今作は、実在の当時最大の豪華客船タイタニック号の沈没事故を描いた作品である。
テクノロジーに胡座をかいた人間の傲慢が、想像を超えた悲劇を巻き起こす、という経過を具に描いている。
前半の船長、設計者や船のオーナー企業の社長、その他男たちの自信に満ちた発言の数が示唆的だ。

この「傲慢なテクノロジーが、それゆえに崩壊する」というテーマは、「ターミネーター」などでジェームズ・キャメロンがしばしば描いているテーマである。
彼の人類観の一端が表現されているように思える。

その他、「人間の弱さ」も、「傲慢さ」の対照として、これでもかと描かれる。
婚約者役ビリー・ゼインは、「傲慢な男性の弱さ」の象徴的人物を好演。
威嚇発砲!!
救助ボートにまつわる惨いエピソードの数々!!

他方、主人公2人や乗客乗員の一部の姿を通じて描かれるのは、より善い人生に対する前向きな姿勢である。

今を生きろ。
決して諦めるな。
そして、その言葉を体現するローズの、溢れんばかりの生命力!!

あまりにも絶望的で、人の力を超えた過酷な状況下において、あくまで希望を捨てない2人の姿勢は、一際輝く。

レオナルド・ディカプリオとケイト・ウィンスレットの放つ、若さという最上の煌めきも、このメッセージをより強くしている。

乗員らの、死地において、なお気高い行動の数々も象徴的であろう。

愛、というものの深遠を語るには、2人が過ごした時間は余りにも短いかもしれない。
しかし、自らの生命を顧みないほどの、一生に一度、あるかないかの、嵐のような恋情。
誰もが憧れる、それは、たしかに今作に刻印されている。

[まとめ]
ディカプリオとケイト・ウィンスレットの若さゆえの輝きを奇跡的に切り取ったロマンスと、ジェームズ・キャメロンが執念で撮影したスペクタクル映像が融合した、歴史的超大作にして、映画史的名作。

印象的な演技やシーンは多い。
事故後、呆然となる船長、共感しかない。
「成金」のブラウン夫人、終始カッコいい。
ローズ母、害虫を見る目の演技が凄い。

好きなシーンは、ローズのツバを吐く伏線の回収か。
あるいは、囚われのジャックを救う、雄々しいローズの紙一重の奮闘シーンも好きだ。
この辺の浸水アクションは、大抵のアクション映画を優に上回っている。
今回は全体に、「メア・オブ・イーストタウン」効果か、ケイト・ウィンスレットの活躍に注目して観た気がする。
今後も注目したい。