復讐の果てに見るは喜劇か、それとも悲劇か。
前評判では高評価な意見しか聞いていなかったので、かなり期待して観に行ったのですが、結果は想像以上に輪郭がボヤけた、佳作崩れの凡作でした。
まず謝らねばならないのは、本作をコメディの比率が高い作品であると勝手に思い込んで観てしまったことです。
確かに、中盤以降はコメディ的な描写が増えていくのですが、それ以前、そして終盤に至ってはシリアス、或いはアート路線での展開が続き、気持ちよく笑い飛ばせるような内容ではありませんでした。
制作側が意図しての構成だとは思うのですが、タイムループまでのフリが長く、またタイムループに関する説明の一切が省かれているため、観客が画面から得られる情報を必死に汲み取って観ていかなければなりません。
説明的な描写や台詞の省略は、タイムループの設定以外にも多く見受けられ、制作側が観客を信じ過ぎてしまっている印象がありました。
一例を挙げますと、VR空間でありながら、主人公、岩森淳(若葉竜也)の復讐相手である溝口登(伊勢谷友介)に自我があったのは、最後までよく分からなかったです。
もし仮にタイムループまでをフリと考えないにしても、キャラクターたちが織り成すドラマも説明不十分なので推測しようにも情報が少な過ぎます。
不確定な要素が多すぎて、考察しようにも何十通りも考えられてしまい、エンタメ的には観にくい作りになってしまっていたと思います。
せめて砂原唯(山下リオ)のバックボーン、溝口との関係性にもっと踏み込んだ描写を挿れてくれていたなら、評価も大分と変わっていたと思います。
ただ、悪いところしかなかったということもなく、中盤辺りから観られるようになる、岩森と溝口の奇妙な関係性の構築はお笑い的な緩急が生まれており、仲良くなれどいつ殺されるのか分からない、いつ死んでもおかしくないという緊張感から来るコメディ描写は、劇場でもチラホラ笑い声が上がっていました。
特に好きだったのは、屋上に2人で立って、太陽が5つ見えたことに対して、耳心地のいい言葉を言い合った瞬間に、岩森が胸元から拳銃を取り出す性急な展開で、その後の溝口の反応含め最高にテンションが上がりました。
総じて、相当数のモヤモヤを残しながらも、他のタイムループではなかなか味わえない魅力をもった作品でした!