中年たちが引っ張っていく、ポップな小津風メロドラマ!
カレンダーを遡ってみると、どうやら2月8日に鑑賞していたようです。
実に7ヶ月も熟成させていた訳ですが、時間を置いたのにはこれといった理由がないのが驚きです。
強いて言うなら、身体によく染み込む映画だったせいで、特筆すべき言葉が見当たらなかったのかもしれません。
流石にそれではマズいので、ここらで一旦鑑賞にて生じた考えを消化したいと思います。
毎度前置きが長くなってしまいすみません。
それでは、本編のレビューをお楽しみ下さい!
まず本作の概要ですが、理不尽な理由で退職を余儀なくされたアンサ(アルマ・ポウスティ)が、同時期にアルコール中毒が原因で職を追われたホラッパ(ユッシ・ヴァタネン)と偶然出会い、お互い惹かれていくといった内容となっています。
大筋だけで言えば、中年が主役を張るメロドラマなのですが、その意匠にはアキ・カウリスマキの巨匠たる手腕がこれでもかと光っており、見応え抜群の映画に仕上がっていました。
ポップな劇伴使いを筆頭に、アーティスティックでお洒落な美術、小津安二郎を想起させる色彩やモチーフ使い、ささやかな日常の肯定を謳うテーマ性と、洗練されたかたちで提示されるストロングポイントの数々に、私は恐ろしさすら感じてしまいました。
劇伴は現代的な趣を加えつつ、作中世界の深みを増させるのに寄与し、離れていそうでいながら、ばっちりハマった選曲になっていました。(私はこういった認識的な隔たりがある中で、内容面での親和性が、翻って作劇にもマッチするタイプの選曲が好みなので、垂涎ものの劇伴使いでした!)
劇場で鑑賞した時は小津安二郎監督作をまだ観られていませんでしたが、今になって監督諸作に触れた後に思い返すと、その影響の大きさに驚かされます。
印象的な色として、本作、並びに小津安二郎監督作は赤が使われています。あえて紅と言っても良いかもしれません。
そういった色使いは、精神的なつながりを感じさせるだけでなく、脚本に対するモチーフとしての機能にも通ずるものがあったと思います。
テーマ性に関しては、ヴィム・ヴェンダースの『PERFECT DAYS』との連続性を感じさせる、ささやかな日常の肯定、日々見過ごしてしまう優しさ、他者との連帯のありがたさが根底に流れていました。
普遍的で、広い観客に刺さる、素晴らしいテーマ選びだったと思います。
展開面はメロドラマを基調としていることもあり、そこまで突飛を貫くことはありません。
もはや安心感さえ覚える行ったり来たりを繰り返す、心地の良い時間に酔いしれる81分間となっていました。(作為が全くない訳ではないですが!)
もし仮に、行ったり来たりを単調に感じてしまう人がいたとすれば、本作はそれほど高く評価できるものではなくなったでしょう。
ただ本作に興味をもつ方に、そういった感覚を抱く方は少ないかもしれませんね。
総じて、映画的な多幸感が心地よく身体に染み込んでくる、温かい作品でした!