この映画はカナダの田舎町、バーリントンに住む高校三年生、ローレンス(アイザイア・レティネン)が主人公ですが、映画はずっと彼を追っていてこの時、別の所では?がありません。
なので、ローレンスという高慢で繊細なティーンエイジャーに思い入れができるかどうかで好き嫌い別れる映画だと思うのですね。
ただ、ローレンスは小太りで、映画マニアで、友人と言えるのはマットだけで、社交性に欠けて、高慢かつ繊細で神経質という演じるには大変難しい役だと思いますが、アイザイア・レティネンという人はローレンスの良い面、悪い面、嫌な面、愛すべき面・・・・・・をすべて演じていてすごいと思いました。
10代くらいの生意気な年ごろは、自分の好みが世界の中心だったりします。理想、プライドも高くて映画の道を行くと信じているローレンスはアメリカの大学NYUで映画の勉強をするのだ、と確信しています。
現実は、ローレンスにはそんな実力はなく、NYUで勉強するには学費がとてつもなく高くて無理で、シングルマザーである母が地元の大学を勧めてもかたくなです。
ローレンスの一番悪い所はプライドばかりで、現実が見えず、すぐ相手を見下すところなのですが、学費のためにといつも通っているレンタルビデオ屋でアルバイトを始めて、店長のアラナという女性と出会います。
客として好きな映画(『ソフィーの選択』と『バッファロー’66』2本のうち、選ぶのは『バッファロー’66』というこだわりの一瞬のシーンが好き)を自由に選ぶのではなく、ノルマで『シュレック』のDVDを一日3本売りなさいというのに、カンカンに怒って『シュレック』なんか映画ではない、と叫びますが、そこは客ではなく店員という現実。
(使いにくいアルバイトではありますが)
そんなローレンスですが、悪い面だけではなく素直な映画好きでもあるし、弱い者いじめなどはしない、父が自殺したことが心の傷になっているので同じような話を聞くと切なくてたまらない子犬のような目をする、繊細さを持っていて、性根が腐った人間ではないのです。
監督のインタビューを読むと、監督は女性ですが、ローレンスは完全に10代の頃の自分であり、映画へのオマージュを含め、かなり辛辣に過去を振り返っているようです。
そして息子を時叱り、つきはなし、喧嘩するけれど一番の理解者は母です。母の懐の深さに甘えているのに気が付かないローレンス。
しかし、アルバイト先の店長、アラナとの出会いで失敗ばかりするけれど少しずつ、視界が開けていくローレンス。
仲が良かったマットともぎくしゃくしてしまい、すっかり疎遠になってしまい、孤立してしまったローレンスがアラナに聞くのは
「どうしたら人から好かれるのかな」
アラナも色々あった人ですが、最後はローレンスに最高のアドヴァイスをします。
映画が好きで映画だけしか目に入らない少年の映画エピソードが実に楽しくて、ただの嫌なティーンエイジャーには思えず、なかなかいいチョイスをするなぁとか、こんな映画観るの?とか映画ネタが満載で映画ファンにはたまらない「映画の映画」
私も『パンチ・ドランク・ラブ』は大好きだ、とにんまりしてしまう。
そして一番いいのは、まだまだローレンスには大学生活というまだ見ぬ未知の世界が広がっているという可能性があるということです。
これからだよ、ローレンス!!!とつい、肩をたたきたくなる映画。
2025年1月4日
柏・キネマ旬報シアター
カナダの映画だなぁ、と思ったのはローレンス、おすすめの映画の中にガイ・マディン監督の『世界で一番悲しい音楽』があったこと。
私は映画祭で観たのですが、かなりマニアック(脚本はカズオ・イシグロ)