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グランツーリスモのRenのレビュー・感想・評価

グランツーリスモ(2023年製作の映画)
4.5
去年『トップガン マーヴェリック』で、『THE FIRST SLAM DUNK』で、『RRR』で、劇場で映画を観る楽しさを再確認した方、今年も映画館に行く理由ができました。どう考えても面白い。ぜひ大画面と大音響で浴びてほしい。

ニール監督、『第9地区』の一発屋とか言ってごめんなさい。『チャッピー』もちゃんと観ます。こんなにエンタメとしての魅せ方が上手い監督だったとは知らなかった。

最初から最後までずーっと面白い。実写版『カーズ』だし『フォードvsフェラーリ』だし、少年漫画のようなスポ根の王道物語ではあるのだけど、そういう王道を最大出力で出せる映画がどれだけあるのかという話。ゲームの世界から現実世界へ話が広がっていく中で、仮想世界のケレン味も、現実に即した迫力や恐怖も味わえて非常にお得だった。

主人公・ヤン(アーチー・マデクウェ)周辺の人間関係の捌き方がひたすらにスマートで上手い。ジャック(デヴィッド・ハーバー)との師弟関係>>>家族(主に父親)との関係>恋愛関係の配分が的確で整頓されていた。

オンラインゲーム(曰くシミュレーション)で他者と接触することなくレース経験を積み重ねてきたヤンが一転、徹底的に扱かれる。ゲームという経験や手先の技術など精神的でミクロな世界からクラッシュ蔓延る肉体的な世界へ視野が広がるので、その急激な環境変化への適応のためのスパルタ指導に説得力がある。この時点で、ここは一度の一瞬のミスで死ぬ世界なのだという説明がついている。

初めてレーシングカーのGを体験する瞬間、本当に数秒のシーンなのだけど、ガクッと後ろに体を持っていかれる衝撃がちゃんと伝わる。レースの中で気を確かに保とうとする精神状態もちゃんと分かる。俳優に本当にGを体験させなくても映画は作れるのよ。
他方、レース中にCGで順位表示したりコースを表示したりする演出はゲームだ。肉体性は現実のレースに移り現実で肉体やモノをぶつけて戦っているけど、その精神性はゲームの延長にあるのだというバランスを最後まで忘れない。終始主人公に寄り添い続ける。

デジタル世代のヤンがアナログ世代の大人たちと衝突し手を取り合うブロマンス×2だけど、その相手である父親と師匠が共に前線から退いた大人なのが良い。ヤンに夢を託したくなる思いもヤンを引き止めたくなる思いもリアルとして存在できている。
どこからが脚色の手柄なのから分からないけど、こういうチューニングがゲーム/リアルという一層目の設定だけでない世代の話として熱くなれるのだと感じる。

仲間の話も意地の悪いライバルの話も、ヤンが夢を獲得するまでの物語を邪魔しない。どちらも不可欠な要素でありながら、散漫にはならない程度にどのシーンでもヤンの話に戻ってくる。ル・マンでかつてのチームメイト?と共闘する流れに胸が熱くなった。

あと二点。オーランド・ブルーム演じるダニーが、ヤンの行手を阻むような商業主義一点張りの人間とも、ヤンと共に熱い闘志を燃やし続ける熱血人間とも(最初こういう人だと思ってた!)取れない中間で揺れているようで、人間らしくて良かった。働く人間って大体こうだよなぁと思う。

あと、東京の描写がわりとリアルで有り難かった。頓知気サイバーシティ・トーキョーではなく(現代ロケ撮影なのだからそりゃそうなのだけども)皆んながしっている新宿を感じる。ちゃんと実在の世界を感じる。

夢、努力、勝利、仲間、ライバル、あの全てを詰め込んで疾走する真っ直ぐなエンターテイメントの最新版。目くるめくアクションの全てに文字通りライドして鑑賞されたい。

その他、
○ クラッシュのシーンや主人公の師弟関係など、やっぱり『カーズ』なんだよな〜。
○ Kenny Gを聴く若者と、Black Sabbathを聴く師匠の対比。なんとなく性格が分かる。Kenny Gは『カーズ』でも使われていた。
○ ル・マンでのピットクルーを巡るある一幕が、本筋とはそこまで関係無いのだけど面白かった。
○ 劇映画でオーランド・ブルーム見たの何年振り?
○ 車もゲームも本当に興味の無い自分でも熱くなれた超親切設計。エンターテイメントかくあるべし!
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