キャッチ30

瞳をとじてのキャッチ30のレビュー・感想・評価

瞳をとじて(2023年製作の映画)
4.2
 映画『別れのまなざし』の撮影中に主演俳優フリオが突然失踪する。警察は近くの崖に靴が揃えられていたことから自殺と断定するが、遺体は発見されない。それから22年、フリオの親友で元映画監督のミゲルは彼の失踪事件の謎を追うTV番組から証言者として出演以来を受ける。ミゲルはフリオの失踪を機に映画監督を引退して小説家に転身し、今は釣りと読書と翻訳などをして生活していた。『別れのまなざし』も未公開状態になっていた。

 『別れのまなざし』で古びた屋敷に住む"哀しみの王"はフリオ扮する探偵に自分の娘を探すよう依頼する。一方、現実ではミゲルが番組出演をきっかけにフリオの足跡を辿ることになる。ミゲルは『別れのまなざし』の編集を担当していた親友のマックス、フリオの娘アナ、二人が愛していた女性ロラと旧交を温めることになる。彼等との対話からミゲルは自身の半生を追想する。

 やがて、番組放送後に一通の情報が寄せられる。それは海辺の高齢者施設にフリオによく似た男がいるというものだった。ミゲルはそこでフリオの姿を確認するが、現在の彼は記憶をなくしガルデルと名乗っていた……。

 これが30年振りの長編映画となるヴィクトル・エリセ監督は静謐な映像で記憶と映画と人生を交錯させる。「私はアナよ」という台詞や閉館した映画館での上映は明らかに自作である『ミツバチのささやき』のオマージュだ。貸し倉庫や保管されている数多くのフィルムは記憶の宝庫のように見える。映画の始まりと終わりに現れるヤヌス像も記憶に残る。映画の奇跡がフリオに宿ると信じたい。