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瞳をとじてのROYのレビュー・感想・評価

瞳をとじて(2023年製作の映画)
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かつての親友は、
なぜ姿を消したのか——。
未完のフィルムが呼び起こす、
記憶を巡るヒューマンミステリー

『ミツバチのささやき』のビクトル・エリセ監督31年ぶりの長編新作にして、集大成!

◼︎STORY
映画『別れのまなざし』の撮影中に主演俳優フリオ・アレナスが失踪した。当時、警察は近くの崖に靴が揃えられていたことから投身自殺だと断定するも、結局遺体は上がってこなかった。それから22年、元映画監督でありフリオの親友でもあったミゲルはかつての人気俳優失踪事件の謎を追うTV番組から証言者として出演依頼を受ける。取材協力するミゲルだったが次第にフリオと過ごした青春時代を、そして自らの半生を追想していく。そして番組終了後、一通の思わぬ情報が寄せられた。

「海辺の施設でフリオによく似た男を知っている」——

公式サイト→https://gaga.ne.jp/close-your-eyes/about/ より抜粋

◼︎DIRECTOR’S NOTES
私はどんな映画を作りたいのか?そして、それはなぜか?できるだけ短い言葉で正確に伝えるなら、答えはこうだ。『私が書いた脚本から自然に花開いた、純粋で誠実な必然によって生まれる映画』

でも、この答えだけでは十分でないだろう。だから、「瞳をとじて」が必然として伴う“何か”について説明したい。そのためには概念の領域を掘り下げる必要があるが、私の意図を明確に宣言する。もちろん、それはよき意図だ。よき意図がよい結果を生むとは限らないと、分かっていたとしても。

プロットの細部を積み重ねた果てに、この映画が観客に向かって描こうとする物語は、 密接に関わる2つのテーマ“アイデンティティと記憶”を巡って展開する。かつて俳優だった男と、映画監督だった男。友人である二人の記憶。過ぎゆく時の中で、一人は完全に記憶を失い、自分が誰なのか、誰であったのか、分からなくなる。もう一人は、過去を忘れようと決める。だが、どんなに逃れようとしても、過去とその痛みは追ってくることに気づく。

記憶は、テレビの映像としても保存される。人間の経験を身近な形で記録したいという現代の衝動を、何よりも象徴しているメディアだ。

映画を撮る者の記憶は、ブリキ缶の棺に大切に保管されたフィルムだ。映画館のスクリーンから遠く離れて、映像視聴メディアによって社会における居場所を奪われた、それぞれの物語の亡霊たち。この文章を綴る者の記憶と同じように、長く刻まれる。

これらの特性を内包した物語は、半分は経験したこと、半分は想像から生まれた。私は映画の脚本を、自分で書いている。だから、私が人生において最も関心を抱いていることが、作品のテーマだと考えるのは自然なことだ。言葉では伝えきれないが、一本の映画を観た経験が主役となる詩的な芸術性に属するものだ。そういう意味で、「瞳をとじて」では映画の2つのスタイルが交錯する。1つは舞台と人物において幻想を創り出す手法による、クラシックなスタイル。もう1つは現実によって満たされた、現代的なスタイルである。別の言い方をするなら、2つのタイプの物語が存在する。
一方は、伝説がシェルターから現れて、そうだった人生でなく、そうあるはずだった人生を描く物語。そしてもう一方は、記憶も未来も不確かな世界でさまよいながら、今まさに起こっている物語だ。

ビクトル・エリセ

公式HPより抜粋

◼︎NOTE II
この作品には、ビクトル・エリセ自身のこれまでの人生や過去の作品、影響を受けた映画などからの引用がふんだんに盛り込まれている。その意味では、まさに集大成的な作品だ。そのため、『ミツバチのささやき』、『エル・スール』はもちろん、押さえておいた方がより楽しめる要素や関連がたくさんある。それらをまず羅列したあと、作品についても触れようと思う。

「ビクトル・エリセの31年ぶりの長編映画『瞳をとじて』に仕掛けられたものとは──」『ザ・シネマ』2024-01-30、https://www.thecinema.jp/post/article_letters/hJY9i

◼︎NOTE III
『瞳をとじて』は徹頭徹尾「座っている人間にどうカメラを向けたらよいのか」を問う。そのとき、彼と彼女の「顔」をどう撮ればよいのか。最もシンプルで、もしかしたらつまらない、解けようもない問いに、ふと答えが与えられるような時間が長い旅の果てに訪れる。『夜の人々』『リオ・ブラボー』、そして何よりも『ミツバチのささやき』…、自分自身が映画史そのものである人だけができるやり方で、エリセは失われた記憶を甦らせようとする。その苦闘があまりに切実で、深く胸を打たれた。

濱口竜介

◼︎THOUGHTS
視線の交差

なんだろう、この平坦な形。心地良かった。

切り返し
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