ツクヨミ

瞳をとじてのツクヨミのネタバレレビュー・内容・結末

瞳をとじて(2023年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

映画.老い.記憶、失踪した俳優をめぐるドラマの果てに映画は奇跡を起こせるのか。
ビクトル・エリセ監督作品。31年ぶりのエリセ監督長編最新作が公開、しっかり予習をしてから挑んでみた。
まずオープニング、庭園にある石像をしっかりカットを割ってズームして見せる。するとまたまた固定ショットで厳かな室内で金持ちから依頼を受ける男を会話劇で見せていく。相変わらずの美しいショットの連続、それもゆっくりわかっていく映画内映画という事項にちょっとワクワクして見れた。
まあ本編はそんな映画内映画で出演していた俳優が失踪し20数年が経過した時系列、その映画を撮っていた映画監督が主人公となり古い失踪事件としてたまたまテレビで取り上げられたことで記憶を朧げに思い出していく話だ。過去関わった知人たちと懐かしい会話を紡ぎながらゆっくり失踪した俳優を思い出しながら浸る、すっかり老いてしまった人々による過去話がゆっくりした会話により沁みる感じがまた良い。しかしゆっくりしすぎたタッチで淡々と進むが話は全然進んでいなく感じてしまうためやや退屈と思う面もある前半。
それに対し失踪した俳優が見つかり彼がいる施設で一緒に記憶を共有し再出発するような後半はやっと物語が進み出すワクワク感が帰還、もしかしたら記憶が戻るかもしれないという期待とやはり老いによる現実がまざまざと見える半面が板挟みで少しモヤモヤ。だがもしかしたらあの映画のフィルムを見せれば記憶が戻るかもという展開、劇中でも言われた"ドライヤー亡き今奇跡はない"という言葉を反故にし奇跡を起こしてやろうという気概にまたワクワクしてしまう。"ニューシネマパラダイス"のラストに匹敵するぐらい素晴らしいフィルムの使い方に脱帽し、オープニングと合わせ映画内映画のエンディングで合わせてくる構成力もまた素晴らしい。映画内映画で少女が魅せる"ミツバチのささやき"に共鳴するような瞳が作る眼差しに涙してしまう。なんと素晴らしくも筆舌しがたいラストか、またいろんな解釈できそうな見せ方なんだが、正直記憶が戻ったか戻らないのかはわからなくて良いとすら言える素晴らしき余韻に震えた。
そして映像としては素晴らしい構成で、オープニングとエンディングがこれまでのエリセっぽく美しく、現実が冷めた感じでエリセっぽくないのが際立っていた。それは主人公である映画監督がエリセのメタファーになっており、彼が撮った映像のみがエリセらしくなっていると考えると素晴らしい構成だと思えた。メタファーが映画監督もそうだが老いたアナをまた演じたアナトレントが"ミツバチのささやき"を演じ老いた姿だと考えるとジーンズとくるし、いろいろ現実との共通項がいろいろ面白くエリセや役者のリアルを知っていればさらに考えさせられる作品に仕上がっていると思う。"私はアナよ"と語りかけて目を閉じるアナトレント、"ミツバチのささやき"のころと全く変わらない瞳で涙しそうになる。
これまでエリセ作品の中で映画内映画が徐々に大きくなっていく感じがしたが、今作ではヴェンダース"東京画"みたいな構成もありめちゃくちゃ映画自体に比重が置かれている素晴らしい映画内映画になっていて良い。ラストの見せ方もあるが"ニューシネマパラダイス"に匹敵するぐらい映画愛が強い作品になっていたと思う、映画内映画でオープニングとエンディングしか見ていないのにあれほどエモーショナルな気持ちを抱かせるとは、言語化できないほど素晴らしく複雑なラストにまず拍手な傑作になってるんじゃなかろうか。過去作とのリンクも多々あるしやはりしっかり予習復習して見るのがベストなんじゃないかなー。
ツクヨミ

ツクヨミ