「昔からチェスに夢中でね
若い頃に王の駒を見て思った
この駒だけが何故か悲しみに満ちていると」
「今ではみんな映画をデータ保管だ
でも映画の歴史の9割以上が
フィルムに焼き付いている
こんなにあるのに
全部メモリーカードにしようってのか」
「これをテレビで流すのか？」
「冒頭だけだ」
「画面比率はどうなる？」
「メモで指示を出せばいい」
「どうだか」
「老いることが全ての問題だ」
「その答えを知ってるか？」
「恐れも希望も抱かないことだ」
「私は父の映画はもう見ない
昔は何本か見たわ
不思議な感じ
登場人物が父だと言われる
でも別人に見えた
だけど声を聞いて父だと感じた
電話で聞いた声よ」
「彼は落ち込むたびに言っていた
全く別の人間になってここから逃げたいと
私たちが若者の頃の願いを覚えてるかい？」
「本当の居場所を見つけること、ね」
私は見つからなかった
あなたは？」
「俺もだ
でも今は思うんだ
彼は願いを叶えたんじゃないかと
俳優としての彼は映画の中で永遠に生きる
でも現実の彼は姿を消した
彼の姿が浮かんで来るんだ
彼が全てを思いついた瞬間が」
「あなたは今も映画監督だわ」
「彼で間違いない
1番ショックだったのは私を見る彼の目だ
今の彼にとって私は何者でもない」
「今こうしてやっと本当の人生が分かった
そして本当の名前も」
「名前が何だと言うんだ」
「医者のカルテだけが人生の全てじゃない
あなたにできることで
人生を取り戻す手助けができるはず」
「本当にこれを上映する気か？
バカな期待はするな
一本の映画で奇跡が起こせるとでも？
ドライヤーが亡くなってから
映画から奇跡は無くなった」
「ガルデル この席へ」
