Keigo

瞳をとじてのKeigoのレビュー・感想・評価

瞳をとじて(2023年製作の映画)
4.8
尊い。
ビクトル・エリセの作品を観ると、いつも必ずそう思う。
しかもそれは遠くにあって実感の湧かない距離を感じる尊さではなくて、自分のような人間でも今にも手が触れられそうに近くて驚くほど馴染みの良さそうな、心から信じられる尊さだ。

時間も、記憶も、老化も、変化も。
人間なんて所詮抗えないものばかりな上に、愚かで、卑しくて、醜くて、弱い。
どれだけ科学が発展し技術が進歩して物質的に豊かになろうと、相変わらず人間が織り成す社会はあれもこれも“仕方ない”ことで溢れている。

それでも尊いと思う人間の営みを信じ、それこそを拠り所にしなければ、生きるというのはあまりに辛いと思う時がある。


誠実だと思う。
ビクトル・エリセはやっぱり、映画を信じているんだと思った。

彼が人生を懸けて向き合ってきた映画という人間の営みを、彼自身がどう捉えているか。彼が思う映画とは一体何なのか、それを礼賛するでも卑下するでもなく、あくまでも自然体でありのまま提示されたようで。

世界の有り様に、自分の外側に精一杯目を向けて、耳を傾け、手を触れてみる。でもどこまで行っても世界は自分を通してしか見えないし、聴こえないし、触れられない。そこで瞳を閉じてみる。本当に尊いことは、自分の中にある。

映画という営みは少なくともそのきっかけになりうるということを、ビクトル・エリセは信じているんだと思う。


2024/03/28 ヒューマントラストシネマ渋谷
2024/04/25 シネマ・ジャック&ベティ
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