ビンさん

先生!口裂け女です!のビンさんのレビュー・感想・評価

先生!口裂け女です!(2023年製作の映画)
3.5
シネ・リーブル梅田にて鑑賞

この令和の時代に、口裂け女の知名度や如何に? とは思うものの、ホラーのジャンルでは根強い人気があるようで。

そもそも僕が小学生の頃というから、70年代頃に、誰からともなく広まった噂で、僕の住む奈良県香芝市下田地区(思いっきりローカルですみませぬ)では、田原本信用金庫(現:奈良中央信用金庫)の香芝支店前の国道165号線を、高速で東の方へ走って行った、というのが当時もっとも身近で聴いた口裂け女話であった。

んなこたぁ、ともかく。

うだつのあがらぬヤンキー高校生三人組が半グレリーダーへの年貢代わりに盗んで献上していたバイクの1台があろうことか口裂け女の持ち物でその怨みで三人組は哀れ口裂け女の餌食になってしまうと普通なら考えるところを何故か意気投合し一緒になって半グレ一味を成敗するというおおよそ素面で考えたとは思えぬ物語を堂々と映画にしてしまったという字面だけ読み返すと辛辣に批判してるようだがこれでも惨事じゃなく賛辞のつもりなので誤解なきように。

とまぁ、そんな映画。

いやぁ、快作と書くと褒めすぎだし、怪作と書くとそこまでカルト映画になるかぃ? という、僕の中では微妙な位置にある、でもハッキリ言えるのは愛すべきキュートさのあるホラーアクション映画だ。

そもそも、本作の監督・脚本・編集を担当したナカモトユウ氏の、口裂け女というキャラに対する視線がいい。
ただ、顔に傷を負っているというだけで、異端なキャラ扱いされているのってどうよ、という思いから本作のようなキャラになったと舞台挨拶の際に語っておられたが、昨今指摘されるルッキズム云々に対する一つの答えという、そんな高尚なものが本作に果たしてあるのか否か、そこは追求しないけれど、そこに監督の人となりは見えてくるように思う。

そして、都市伝説で語られる本来の姿と、そして実際は一人の女性以外の何者でもない口裂け女を、その身を持って見事に体現された屋敷紘子さんの素晴らしさよ。

また、一応ゴアな描写(考えてみれば、人の○をロープ代わりにするなんて、描き方によっちゃとんでもないことなんだが。あ、○については以前にとんでもないことをその出演作でやってのけた大迫茂生さんも出演されてるのがご愛嬌)もあるにはあるが、ゴアをゴアに見せないのも、監督の手腕だなぁと、それこそ褒めてんのか貶してんのかよくわかんないけれど。

コミック雑誌に連載されている漫画をドラマ化してみました的な、かつての「月曜ドラマランド」のようなテイストといえばいいだろうか。
そこに屋敷さんのアクションも楽しめるという、考えてみれば贅沢な映画だな、これは。

7月8日の舞台挨拶後のサイン会の際に、屋敷さんから、
「ひとつ訊いてもいいですか? 今日、どうしてこれを観ようと思ったんですか?」
と、突然質問された。

実は本作を観る前に、この映画で口裂け女を演じてらっしゃるのは誰だろう? と思って確認すると屋敷紘子さんの名前が。
その時にピンとこなかったのだが、出演されている作品『片腕マシンガール』、『蠱毒ミートボールマシーン』、『マンハント』とソフトが我が家にあるじゃないか、と。
慌てて作品を観直して、確かにそれぞれに印象的な役柄であり、無意識のうちにその演技に魅了されていたことに愕然としたのである。

で、その屋敷さんの問いに、
「も、もちろん、屋敷さんに逢えるからです・・・」
と、歯の浮いたことを言って思わず赤面してしまった50代のおっさんがいたと思いねぇ。
ビンさん

ビンさん