れおん

ほつれるのれおんのレビュー・感想・評価

ほつれる(2023年製作の映画)
4.4
夫の文則を愛することはもうできなかった。すれ違いの続く夫との関係を忘れさせてくれる木村さんとの時間が、綿子にとっては何よりも大切な時間だった。ところがある日、愛する人が死んだ。彼女の心は揺れ動き、夫との関係もさらに硬直化する。不安になる文則。哀しむこともできない綿子。ふたりの間の"ほつれ"を、自身の気持ちの整理を、ふたりは如何なる選択で前に歩み出すのか。

張り詰めた空気感の演出、門脇麦・田村健太郎・染谷将太・黒木華が織りなす絶妙な緊迫感、他に類を見ない"大人"の恋愛物語。一人ひとりの人物像が、些細な演技や撮り方の工夫によって生もののようにスクリーンから滲み出てくる。"不自然"なカメラワークが、対象物の写し方が、実力派俳優陣の表情や息遣いの演技と映像を邪魔しない豊かな音楽との融合で、"自然"な心の機微を表現する。

感受性が豊かな衝動的な女性の結婚観と恋愛観。論理的で物事の善悪の一貫した理解がある男性。他方は内気な面と社交的な面とを併せ、内なる感情を無闇に表には出さない男性。門脇麦が『チワワちゃん』で演じたミキが、まさにそのまま歳を重ねたような綿子... そんな綿子の心が揺れ動く姿、エモーショナルだった。

恋愛から結婚。結婚から家族へ。不倫から離婚。それぞれの選択をする上で、感性と理性の比重の置き方が何よりも重要な要素であり、衝動によってほんの僅かでも決断に迷いが生じたら、悲惨な結果へと導かれてしまうのだろう。
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