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ほつれるのkomagire23のネタバレレビュー・内容・結末

ほつれる(2023年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

(完全ネタバレですので、必ず鑑賞後にお読み下さい)

この映画の優れている点とは

結論から言うと非常に面白く見ました。

この映画の優れている場面は、主人公の綿子(門脇麦さん)と夫の文則(田村健太郎さん)とが最終盤まで本質的な夫婦の会話をほぼ行わない所にあると思われました。
ところでその一方で、この夫婦はある水準のリッチな生活をしていることが分かります。

主人公の綿子とその夫の文則は、本質的な夫婦の問題の話には最終盤まで互いに踏み込みません。
だからこそ問題の本質に踏み込まない互いの態度によって、夫婦の高水準の生活を支えていたと思われるのです。

そしてこの(本質的に破綻しているからこそ互いに不倫をしていた)小さな現在の夫婦の物語に見えるストーリーは、実は現在の問題に踏み込まず辛うじて成り立っている日本社会の暗喩になっているとも思われました。
そこがこの映画が(綿子と文則同じ立場に立たなくても)根底のリアリティーを感じさせている理由だと思われました。

主人公の綿子は、自身を精神的に救っていたはずの不倫相手の木村(染谷将太さん)が事故に遭っても彼を助けようとはしません。
そしてそれは、物事の本質に踏み込まない、踏み込まないからこそ成り立っている私達の現在社会の暗喩になっていると思われます。
だからこそ主人公の綿子の行動は表層では理解できないのに、深層では観客にリアリティーをもって迫って来るのだと思われました。

しかし主人公の綿子と夫の文則は、最後は互いの夫婦にとって本質的な場所に踏み込み、そしてだからこそ夫婦関係はそこで破綻します。

私達は、表層で辛うじて成り立っている関係において、本質に踏み込んだ途端に互いに破綻することを根底では理解しています。
だからこそ私達は自らを棚に上げて、関係のない他者を一方的に断罪し続けることで延命していると思われるのです。

そんな現在の私達の(問題の)根底を(意図的かそうでないかは別にして)描いたこの映画『ほつれる』の作品と描いた加藤拓也監督は、やはり優れている作家・監督と言わざるを得ないと思われました。
できれば今後はもう少しテーマの広い作品も見てみたいと僭越に思われました。
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