よもぎ

哀れなるものたちのよもぎのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
-
狂った科学者による実験の一貫として自殺した女性の遺体に彼女の身篭っていた胎児の脳が移植された事により生まれた『ベラ』(エマ・ストーン)。成人女性の身体を持ちながら赤子の知能を有する彼女が成長し冒険し学び知性を得て自立した一人の女性となるまでの姿を描いた物語。

幻想的、独創的な舞台装置の中で人の一生を早回しで観ている様でとても興味深い作品だった。個人的には女性の性欲と自由意志の物語なのかな、と。
日に日に成長する美しくも無知で無垢なベラを通して見た男達の姿はとても滑稽で、彼等の視線や口にする愛の多くは暴力的で支配的。

自分より低い無知な存在として所有物の如く「可愛らしい」女性を見、囲い込み金銭面身体面で支配して優越感に浸りプライドを保っていた男が急速に成長し成熟するベラに知性で追い抜かれ、それでも虚栄心から必死に縋り付き(ここのダンスのシーン最高だった)、見放され捨てられた途端に被害者面をして彼女を貶めようとする。マーク・ラファロ演じるグルーミング男を体現した様な野郎、ダンカンは大変に分かりやすく胸糞悪くピエロみに溢れていてとても良かった。
歪んだ父性愛を抱くウィレム・デフォー演じる博士、顛末がピッタリの残虐DV将軍(あれ逆に山羊の方どうなってる…!?ってそっちの方が気になってしまった)、彼女を支配し消費する男達の中で一番無害そうな(全くの無害ではない)彼だけが未来を生きる聡明なベラの傍に残る。登場する男達は揃いも揃って胸糞ながら胸糞なだけに本当に見事な演技力、存在感だった。

中盤特にベッドシーンが大変過剰ながら危惧していたベラが激情した男に酷い暴力を振るわれ屈服させられる、という様な現実の女性達は屡々遭遇する理不尽極まりない場面は無く、何処かファンタジーちっくというか寓話的ながら近現代的な「女性の幸せ」を描いてくれた物語だと思ったし、ベラの様に生きられたら幸せだろうな、と終盤辺りしみじみと思った。

幼児から聡明な成人女性へ、目まぐるしい勢いで成長してゆくベラを体当たりで体現するエマ・ストーンの演技が本当に圧巻で見事。独創的な衣装(ドレス可愛い)、音楽、世界観も素晴らしかった。ありがとうヨルゴス・ランティモス監督。

あと何かしらグッズが欲しいのでクリアファイルでも何でも良いので何卒何かくれ……。
よもぎ

よもぎ