NaokiAburatani

哀れなるものたちのNaokiAburataniのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
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これは何と言うか久々に感想を言語化するのが難しい位に頭をガツン!とやられた怪作でした。
我々の世界と極めて似ている別のどこかにおける火の玉剛速球ストレートな寓話。
ヨルゴス・ランティモス監督作品は聖なる鹿殺しと女王陛下のお気に入りしか鑑賞していないが、いずれも強烈なインパクトがあった。

エマ・ストーンの体当たり通り越して捨て身タックルな演技は圧巻の一言。
脇を固める名優達の演技も素晴らしく、ラストのウィレム・デフォーには思わず涙腺が緩んだ。

作中色んな男性が出て来きます。確かに男性優位社会でも一定数は相手が誰でもリスペクトできる男性はいたんでしょうが、圧倒的にマイノリティだったのは作中でもそうだった。

一見ベラの冒険物語に見えますが、基本的に旅先のどこでもずっと箱の中で抑圧されていた。そのため案外劇中の舞台は総じて狭い印象だった。さらに、それを良かれと思って実質の生みの親であるゴッドもやっていたんだから質の悪い話だ。
旅先において選択しているようで生きるためには実質一択しかないのも何とも言えない気分にさせられる。
背景と劇伴の何とも言えない雰囲気も相まって一層不安さと現実世界の不安定さ不平等さを胸ぐらを掴まれてこれでもか、と見せつけられた気分。

大人の体に子供の頭脳を持ったベラが思ったことをそのまま口にしたり行動に起こすことで自由人気取った放蕩野郎を右往左往させるのは痛快だった。そういう意味では他人の決めたルールや外枠に囚われている限りは真の自由、真の平等は訪れないのだろう。
また、知性がない訳ではなく知識がないだけのベラが少しずつ少しずつ学びと気付きを得ていき、最終的に意識と自己を確立する過程も丁寧に描かれていた。これがまた現実世界の歴史における肉体しか求められていなかった女性の社会進出のメタファーであったように思えてならない。
やはり人間にとって必要なのは正しい教育なのだ。
ラストの将軍にはビックリしたが、考えること自体を奪うという女性が強いられてきたことをそのまんま返ししたと考えたら腑に落ちた。

冒頭にて述べたように感想が言葉で上手くまとめられない‥自由、平等、アイデンティティの確立、貧困、差別、幸せ、愛、等 自分は本当の意味で理解していない、もしくは目を背けて理解しようとしていないように思えたし、まだまだ不完全な現代社会について改めて様々なことを考えさせられる作品であった。
そういったことを気づけていない自分も劇中の登場人物たち同様哀れなるものの一つなんだろう。
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