Mika

哀れなるものたちのMikaのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
5.0
大好きヨルゴスランティモス文句なしの5点!

原作があるからか、そこまでストーリーが難解でなく大衆向け。
18禁だから身構えてたけど、そんなにだったし。
痛さグロさで言えば『聖なる鹿殺し』の方が上だし、変なダンスとか、不協和音のBGMやらもうお決まりのものはちゃんと入れてくれていて、割とすべてが今までの映画よりマイルドな感じ。
不協和音は弦楽器だけじゃなくて管楽器も多用してたと思う。

まさか上映時間が2時間超えだったとは思わなくて、すっごい早いってわけではないけど、体感1時間半くらい笑

単純にこの映画を受け取れば女性の自立とか社会進出とか、そういう話で、男性に対する風刺とかって捉えられるけど、
これ、別に女性に限ったことではないし、そこに収束してしまうのももったいないと思う。
無垢なものが知識と教養を付けていく過程で
人を狂わせるほど引きつけたり、驚くべきスピードで全てを吸収したり、初めて自分以外の周りのことを考えたり、葛藤や喜びや様々な感情を純粋な目で見るとこうなりますっていう話であって、そこに性別は関係ないだろうと思う。
私たちもこれを体験してきたんだよってことでもあると思うし。
身体が女性であったから、それに付随することも起こるだけでは?(赤ちゃんの性別は出てないはず…出てたのかな?)

カメラワークも『聖なる鹿殺し』は上から見下ろす構図=神の視点が多かったのに対して、これ、序盤に「下から見上げる構図」「魚眼」「穴から覗く構図」「ズーム」が多用されていて、後半はあんまり出てこなかったと思う。色々多用することで歪みをあらわしているんだろうなとは思うけど、子ども(=無垢なもの)の目線にも見えたな。

冒険と言うと世界が広がる感じを受けるし、生まれ変わったシーンや家を出てからのシーンで、モノクロではなくカラーになってそれを表現しているんだとは思うけど
むしろベラは冒険をすることで、世間の一般常識に揉まれて無垢ではいられなくなってしまってない?
たしか「良識」と中盤で多用していたと思うけど、それを身に付けてしまうことは、逆に家にいた時よりも苦しいように感じる。

最後の庭が変な歪なものが沢山あるのにも関わらず天国みたいに見えるのは、そこにあるものは「哀れなるもの」ではないということなんだろう。
単純にベラが哀れとも取れるし、振り回される男が哀れと考えるのが普通だと思うけど。
もしかして観てる私たちも哀れなのかもしれない。
中身は子どもとそう変わらないのに、良識や教養を備えた大人のような顔をしているものが哀れなのかも。こうやって映画を観て分かったようにしているのも哀れなのかも。人間のというか、大人への風刺にも思えてくるし、この映画が18禁だということも皮肉にも効いてくる。原作にそんな意図は無かったとしても、現実を拡大解釈して風刺するヨルゴスランティモスはどこかにいてほしい(という願望)。

そういえば劇中、Poor Thingsってべつに「者」って人を指さなくてもよくない?って考えてて、終わってから邦訳タイトル見たら「もの」って平仮名だった。「哀れ」に引っ張られ過ぎて「者」だと思ってしまっていた。
原作タイトルはそういうところも考えられているのかな。
この映画でPoorなのは人だけではない。

きっと時代はヴィクトリア朝なんだろうけど、ベラの服はそこに結構なアレンジが加わっている。成長とともに年齢にふさわしい服になっていくところもとても良かった。私はショートパンツとドレスに沿うレインコートが特に好き。

観てよかったな、これはBlu-ray買うと思います。ミーハー極まりないけど原作はこれから読みます。
Mika

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