春

哀れなるものたちの春のレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.5
大傑作。

ルックとストーリーの奇天烈さに悪酔いするかと思えばまったくただの奇天烈映画に終始しない深さを持った作品だった。ランチモス映画の中でも一番好き。


まず映像がものすごい。情報量がとてつもなく多くて楽しいにも程がある。
ミニチュアや実際の街のセットも使いつつのVFXなんだけどどこかキッチュな空気感がある、ネオアナクロニズムと言ってもいい、勝手に作った言葉だけど。全てのものが存在しているようでしていないような御伽話感が一目で伝わってくる。一昔前にこんなテイストの映画がありそうだけど普通に全然ない、未来感すら漂う時代的浮遊感。脳が溶け溶け。
序盤は特に広角レンズを多用したモノクロのカットがどんどんいろんな方向に変化していって目が回るようだった。楽しくて仕方がない。

見た目は非常に奇抜だけど、テーマやメッセージは普遍的で実はかなりストレートな成長譚になっているし、自由や解放が気持ちよく描かれている。
これをオリジナリティをふんだんに取り入れてイヤミなく高品質にまとめ上げる手腕に驚かされる。この映画は所謂"フェミニズム映画"と言って差し支えないと思うが、提起そのものの新鮮さや面白さはないにしてもこのテーマに対するアプローチの仕方が映画として完璧だったと思う。

この映画の奇抜な見た目にしたってただ単に「変な世界観で楽しい」というだけではなく、「ベラと一緒にベラの視点で未知の世界をオデッセイ出来る」という立派な役割もあるんだ。冒険エンタメ映画ですらある。


そしてもうイマ石の演技が超人的すぎて驚く。赤ん坊から自立した女性までを切り替えて演技したってんだから本当大変なことをやっているよこの人。賞を取って然るべき。


こういう映画が観れるのが嬉しい。ただコメディとしてはそんなに笑えなくて(元々映画で笑う習慣がそんなにないが)、周りの観客と合わなかったのが悔しかった。
春