かなり面白かったけど、始まって30分くらいで帰っていく人がいた。わからなくもない。
凄い要素がありすぎた。倫理観の意表を突く描写、俳優の演技、感情と映像の一致、新しい音楽、それらが渾然となり卑近で矮小で荘厳な映画になっていた。賢き者は不幸せ也。
人生はある程度順番通りに物事を経験しないと大変だな。知能が追いついてないまま成熟した肉体を得てしまった故に思想が強くなるのは現実の通り。知能が足りないまま急に知識が増えた故に個が直面する問題よりも大義を振り翳したくなるの、そういう人はたくさんインターネットで見てきたよ。わかる。
最初に「ハイ!この映画はファンタジーですよ〜」ってのがお出しされるのでランティモスも親切になったな〜。あとツギハギだらけのウィレムデフォーの顔が良すぎ。あの顔とあのペットで、もうこのジジイ絶対やばい奴だ」とわかる。
ヨルゴス・ランティモスは観客が思ってもなかったような「倫理」を突然見せて、観客の常識のデバッグみたいなことしてくるよね。「うわ、僕の脳ってこんな些細なことで倫理的な問題があると感じるんだ!」という驚きがよくある。ロブスターもそうだったし、聖なる鹿殺しにもそういうところあった。
ベラが未知の体験をするシーンでは、実在しない街を描いて観客にも未知の体験を感じさせ、やがて街並みもありふれた普通の世界に落ち着いていく。小説白鯨やシンゴジラにも感じたこのやり方、すごい効果的だった。