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哀れなるものたちのSPNminacoのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
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大きな袖でボリュームたっぷりの布地を纏った上半身と、ショートパンツに素足を出した下半身。ベラの衣装は身体と脳のアンバランスさに呼応してて、やがて精神と肉体が整合すれば衣装もそうなる。アヒルみたいな足取りで歩く膝から下、何度もクロースアップされる脛がとりわけ印象に残った。裸以上にむき出しの、人形のようなその脚は外を歩くためにある。
ベラの冒険はあたかも人間とは、世界とは何か?を発見探求するお伽噺。行きて帰りし物語は、主に身体を通した科学実験、社会実験となる。創造主と被造物、支配と自由意志、抑圧と解放、契約と権利、父権とシスターフッド、愚者と賢者、生と死、残酷と慈悲。モンスターに育てられたモンスターがモンスターを作り育て、そのまた元にはモンスターがいる(何重にも箱詰めにされたベラ!)。ああ哀れなる悲喜劇よ。かくも歪なる世界よ。
漫画か落書きみたいな顔立ちを強調して、長い髪を尻尾のように垂らした怪獣(或いはクッキーモンスター)ベラが、貪欲にすべてを鷲掴みするのにワクワクしてしまうし、スカッとするカタルシスもある。なにせ日頃人類に絶望しがちでタコの方がいいや…なんて思っちゃう自分は、とりあえず人間やり直し!作り直し!できるもんならそうしてもらいたいくらいだ(けど悲しいかな、あっちの方になりそう…)。いや人間より社会を作り直すべきだが。
タイトルバック、魚眼レンズ、下品な食い方などヨルゴス・ランティモス特有の記号は連続しつつ、総合的に今までで一番とっつきやすいんでは。マグリットみたいにシュールでスチームパンクなプロダクションデザインは見事だし、ジャースキン・フェンドリックスの音楽がすごく良かった。エレクトリックでアナクロでユーモラスな不協和音が、跳ねるような弾くような浮遊感。
キャストもその背景美術に負けてない。デフォー、ラファロはニヤニヤするほどハマり役だし、何よりこれぞエマ・ストーンのためにある、もはやエマ以外ありえない映画。あのダンスだけでもエマとラファロの身体能力がよくわかるし、フィジカルにグイグイ見せてくれるのが楽しくて嬉しかった。
それにしてもクリストファー・アボットは「有害な男性性を罰せられる」役が多いというか、この方面で着実に積み上げてきてるのすごいな。

ちなみに原作ではロンドンじゃなくグラスゴーなので、スコットランド目線の皮肉と諧謔と風刺に満ちてた。ランティモスはそうもいかないだろうし、本は本ゆえに構造や文字や挿絵のギミックが肝だから、軸をずらして思い切りフィジカルに振り切ったのもわかる気が。ラファロだけはそのまんまだった。原作読むと、映画版で創作したラストも少し違った意味に取れるかもしれない。
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