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哀れなるものたちのMaoryu002のレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.1
外科医ゴッド(ウィレム・デフォー)は自殺した女性に胎児の脳を移植して、知能が未発達の成人女性ベラ(エマ・ストーン)を作り出す。ベラはある日、弁護士ダンカン(マーク・ラファロ)の誘惑に乗って冒険旅行に飛び出し、その中でセックスや哲学、美食や貧困を理解していく。

こんな作品を生み出したヨルゴス・ランティモスは変態か天才か。
“熱烈ジャンプ” ってフレーズにはハマった。笑

彼の過去作と同じで、人間の性への欲求と、エグい場面がクドクドと続いて、あれは好きじゃない。
ただ、序盤のモノクロ映像と不快な音響が冒険に出て一変し、さらにベラから見える世界の色やタッチが刻々と変わっていく。これが見事!2時間超も引き込まれ続けた。

もちろん、「アルジャーノンに花束を」を彷彿とさせる、知能と行動の変化をリアルに演じたエマ・ストーンの演技も驚きの素晴らしさだった。特にダンスシーンのベラが好きだったな。
“資本主義、社会主義、宗教に騙されるな、自由に楽しく生きよう” と言うハリーに、”あなたは臆病な少年ね” って返すセリフ。あれも強烈。笑

以下、ネタバレあり。

それでもやっぱり、一番の見どころはロンドンに戻った後のベラの勇ましく爽快で美しい姿だろう。
変なバイアスがなければ、どんな人間になれるか、どこまで向上できるか、その可能性を違和感なく見せてもらった気がする。

さらに、ゴッドとマックスとダンカン、それぞれの変化の描き方も絶妙だ。
無感情な科学者は愛を知り、良識的な若者は寛容な紳士に、魅力的なプレイボーイは独占欲と悪意の塊と化していく。
立場が逆転して、ヘロヘロになっていくラファロには大笑いした。

終盤は、死にゆくものは哀れじゃない、世界を知ろうとしない者、探求、向上しない者こそが哀れと言われているようで、思わず自分を振り返ってしまう。

ただ、最後の10分はなくても良かったかな。女性への抑圧という描写は分かるけど、将軍の改造は不快だった。
そんな懲罰的な描写や、生理的に不快な場面を差し引いても傑作なのは間違いない。
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